衰退を迎える”何でも手を出す総合電機という業態”

総合電機メーカーといわれる企業は、長く多くの分野の事業を持つことで、リスクヘッジを行い、圧倒的な競争力を確保しながら、他社を寄せ付けない戦略をもって長く繁栄を謳歌してきた。
日本においてはパナソニック・ソニー・東芝・日立・富士通・シャープなど、お馴染みの総合電機メーカー群がひしめき国内市場もさる事ながら、広く海外にもその覇権を謳歌した。
海外勢においては、アップル・マイクロソフト・インテルなどハイテクにおける分野で、自分たちの得意な分野に全エネルギーを投入し、他社を寄せ付けない戦略を取る事で、電機における分野に楔を打ち込む事でその分野で勝利する事態となっている。
いずれにしても両者は対局の戦略であるが、現在において「何でも手を出す総合電機という業態」は、その巨大さゆえ衰退を招く事になっている。
図を見ても分かるように電気的仕掛けであれば、何でもやっているという”体”である。もはや何屋か分からないし、規模が大きく”なんとなく凄い”というのが一般ユーザーが見る姿である。
ただセグメントごとに詳細に見ると、非常に弱い分野も見られ、まして何の為の事業か分からないものまである。
私たち個々の好みや嗜好を選ぶ事のできる昨今では、何でも揃うという事は、画一的で他の人々と同じモノしか手に入らないと考える。
また、自分好みにあったモノはなく、大量生産販売の「どこにでもあるモノ」なのであり、もはや流行を追い、次から次と製品を買う必要もないのが、電機製品という分野である。
電機分野というのは「無くなっては困るが、あり過ぎても困る」のである。すぐに消費するモノでもない電機は、「普及すればもはや寿命が尽きる」という弱点を常に持ち続ける分野なのである。
巨大企業の過信と弱点が業績に現れた場合連鎖的に崩壊するのがセオリー
巨大になった企業は、いつかその力に酔い自らの過信を招き、他社や自社の弱点が表面・顕著化した途端、連鎖的に崩れていくのが企業崩壊のセオリーである。
パナソニック・ソニー・シャープも危機を迎え、現在は東芝がその真価を問われる重要な局面に立たされている。【東芝解体新書(2):社内カンパニー制の闇】などは面白く読ませて頂いたが、どの企業もその巨体ゆえ比較的潰れるまで案外しぶとく、窮地に陥った時に立ち直る事が出来るかで、本当の企業の力が分かるものである。
【倒産した会社倒産しない会社の決算書】の大神田氏は日立制作所についてこう指摘している。日立製作所の決算短信をチェックして分かる事は、連結ベースで従業員30万人の超巨大企業。
冷蔵庫やテレビなどの家電や「日立マクセル」ブランドの乾電池を造っているかと思うと、世界有数の原子力発電所メーカーの顔をもっている。スケールメリット等もあり、企業規模が大きくなるに従って、無駄が増えていくのも事実。この無駄の大きさを知る為には、総資産回転率が有効であるという。
手持ちの資産が何倍になるかを知る効率性指標”総資産回転率”
「総資産回転率」は売上高を総資産で割って求められる。企業が1年間に生み出した売上高が、手持ち資産の何倍に相当するかを示す効率性指標である。
この指標が大きければ、少ない手持ち資産を 1 年に何回転もさせて、効率よく稼いでいる事を意味し、反対に 1 倍を下回ると、資産の一部が遊んでいる状態であるという。
日立製作所の総資本回転率は、0.7~0.8倍程度に落ち着いている。例えば、100億円の資産がありながら、1年間に70億円だけを使って、70億円の売上高を得たのと同じという事である。
反対に言えば、30億円のムダな資産を抱えている証拠でもあるのだ。この遊ばせている30億円が内部留保にするのであれば、株主に配当するのが本来あるべき姿であろう。
借入金であれば、金利を払うだけ損なので、銀行にでも返済すれば良い事になる。無駄のない筋肉質な経営を目指すならば、不稼働資産を抱えている理由に乏しく、回転が悪くなる企業には注意が必要である。
また、全体の決算を良くするために”チャレンジ”なる数字遊びの小手先のテクニックなどの不祥事が起きやすいのもこの手の超巨大企業なのである。
参照文献:倒産した会社・倒産しない会社の決算書