利権にまみれやすい業界だが社会的な逆境が下り坂を助長させる
ゼネコンは土木や建築を請け負うだけでなく、自ら仕入れた土地を開発し、付加価値を乗せて利益を得ている。手持ちの工事が次々に完成して売上が立ち、また新しい受注が舞い込むのが理想の状況といえるという。
反対に、引渡し前の未完成工事にカネを吸い取られ、購入した土地も売れないのが、最悪の状態といえる。
そこで「棚卸資産回転率」が重要になるという事を【倒産した会社倒産しない会社の決算書】の大神田氏は指摘している。
昨今では海外市場に商機を見出し、様々な国へ展開しながら売上を作っているが、工事リスクも高く参入する国とその工事で大きく業績が浮き沈みする激しいセクターである。
国内でも景気の一時的な回復・震災復興事業・オリンピックに伴う特需によってある程度の成長余力が見られるが、国内での需要はほとんどない。
建設利権において工事を受注できるような状況でもなくなってきており、最近はその見えにくさから「IT」にその利権を取られてしまう事もある。そして、不祥事でも一気に風向きが変わるセクターでもある。
少し前にあった「構造計算書偽装問題」や「基礎杭のデータ偽装問題」などもあり、また公共工事削減など問題は山積され、目に見えるような衰退ぶりである。
また一部の企業は、建設以外にも新規事業で成長を担おうと、もはや建設屋一本で長期的な成長は難しいという事を自ら証明している。
回転し棚卸資産を効率的に売る事が成否を決める
「棚卸資産」とは、販売先が決まっていなかったり、造りかけだったりする資産の事。所謂「在庫」である。「棚卸資産回転率」は、売上高を棚卸資産で割って求められる。「在庫回転率」ともいい、在庫が効率よく売上に結びついているかを見る指標。棚卸回転率が高いほど在庫が少なく、効率的に売れて売上になっているといえる。
しかし数値が低いと、販売の不振・在庫の増大が懸念される。資金が在庫に固定されており、経営の効率性が悪化している事を意味する。
儲けと効率性を重視する建設物とは何かと考えると一番効率が高いと思われるのが「高層マンション」である。
比較的土地を大きく取らず、階数を重ね、戸数を売れば、販売価格を戸数で掛ける事が出来て、非常に売上が立ちやすい。また設計施工を効率化し、タイプ毎にユニット化すれば、また作る効率も上がる。
そして、上層階から値段を上げていき、ドレス路線に振れば、億ションも成り立つようになり、そこから順に売れていく。すべてにおいてマンションは上手く造り売れば、濡れ手に泡の美味しい案件なのである。
あなたの携帯にも「マンション投資やセールス」などの電話はなかっただろうか?また上場する企業の中でマンションを積極的に造り販売する業者はいないだろうか?なので、様々な業者が営業販売を掛けてあの手この手で、マンションを売り、高額なローンを組ませて、大金をせしめようと画策するのである。
マンションを成長の中軸に据える企業は、長期的に考えれば、飽和し一度転べば、売れ残りを大量に抱え、衰退は明らかなのである。
工事を速めて迅速に在庫を処理してカネを欲するが不祥事の温床となりやすい
建設業では、着工した案件が完成工事高(売上高)として計上されるまでの速さを示す。ビルやマンションの受注から引渡しまでの期間が短く、サクサクと売上を計上できれば、棚卸資産回転率は高まる。
棚卸資産回転率の低下には注意が必要であり、工事中のビルや売れ残った土地ばかりが増え、資産効率が低下している事を示す。
なので、工事では失敗は許されず、予算もギリギリで組まれ、造っている段階から販売され、完成前には完売するという案件も見られる。
同時にそれは、工事を手抜きされていた場合や施工不良の場合でも工期の遅れは許されない事は、少し前に起こった基礎杭のデータ偽装問題に発展する事になった。
基礎杭というのは、一度施工され、上家が建ってしまうと見えなくなってしまう。また基礎工事中、杭が支持層に到達しているのは実はほとんどの人が見ることが出来ないのだ。
要はハイテクに頼り、機器に出されるデータで判断している事が多く、チェックなどほとんど出来ないのである。そこに不祥事が起きやすい土壌が潜んでいるのである。
姉歯の構造計算書偽装問題でもそうであるが、これも見えにくい面であり、透明になりづらい問題が潜む業界というのは、いつリスキーな問題が浮上してもおかしくはないのである。
単純に業績が良く資産が多ければ良いというわけではない。非常にハイリスクなセクターである。
参照文献:倒産した会社・倒産しない会社の決算書