【ラグジュアリー戦略】 ビジネスモデルを客観的に分析すると、私たち顧客が長期的価値を得られるブランドを選択できる
世間はまだまだパンデミックの中、地方では緊急事態宣言の緩和を受け、徐々にではあるが経済活動をスタートする動きが広がっている。
そろそろ自粛期間も終わりつつあり、通常の仕事に戻る事となり、ブログの執筆活動も始めていきたいと思う。
今回はブランドのビジネスモデルについて軽く取り上げたいと思っている。では、ブランドの重要性の視点から見ていこう。
持続的なブランドとは、他社と比べていかに競争優位を確保しているのかという疑問に突き当たる。
ラグジュアリーブランドで最も重要なのは、利益の源泉となるそのビジネスモデルである。
その場合、ブランドが拠って立つビジネスモデルを客観的に分析する事で、現在のブランドが長期的に利益の出るラグジュアリーなのかが分かる。
また、同時に私たちだけが、高級ブランドと思い込み、単純に「高い」と知覚しているだけなのかを 本書【 ラグジュアリー戦略―真のラグジュアリーブランドをいかに構築しマネジメントするか 】 を参考に考察してまとめておきたい。
欧州フランスの例であげているのが、「カルダン」 がその例に当たるという。
また、個人的に痛感したが、日本の例で言えば、「コーチ」 というブランドがあるが、新品で購入するとラグジュアリー並みの価格を付けているが、中古市場では大きく価格が下落してしまうモデルが多い。
例えば、男性が同ブランドをある女性にプレセントしたは良いが、女性が同ブランドを売りに現金化する際、分からないところで大きく失望されてしまう可能性が高いブランドである。
同時に「エルメス」や「ルイ・ヴィトン」や「ロレックス」は、新品と中古の価格差が比較的少なく (状態が良い場合) リセールバリューが高いという事も、買取査定を一度でも出した人にとって、中古相場を知らなければ不思議な事と感じるであろう。
特に、エルメスのバーキンなどは、約 20 ~ 30 年経っても状態が良ければ、中古市場でも高いブランド価値を長年に渡りキープしている。
個人的にもその疑問を感じ、多くのラグジュアリーブランドと言われるモデルの買取査定を出してきたが、需要と供給の関係以前に 「ラグジュアリーブランドがいかにビジネスを行ってきたか」 で価値が大きく変わるのではと痛感したからである。
つまり、そのビジネスモデルを知り、そのブランドが「長期に渡り高い価値を有するラグジュアリーブランド」 なのかという事がある程度理解できてしまう。
ということで、その理解を深める為に、ラグジュアリーブランドのビジネスモデルをピラミッド型図形にまとめておきたい。
個人の富を象徴するに優れる “ラグジュアリー製品郡” の ビジネスモデル
本書では、ラグジュアリービジネスモデル群を識別するために、主要な 4 つのビジネスモデルを説明しているが、より重要と思うのが、ラグジュアリー製品群である。
その製品群では、主にふたつの収益手法によってブランドが維持されている。
- 収益性が高い中核事業でのラグジュアリー製品
- 中核の製品ラインが制限されすぎているラグジュアリー製品
である。1. は中核事業において、それだけで会社が長く生き残れることを請け合うぐらい強力なビジネスモデルである。
分かりやすい市場で言うと、ラグジュアリーの腕時計や小物市場や高級自動車市場となっている。
ラグジュアリーにとって理想的な製品であるが、人に見られる時間が長く、購入価格が高くても「目に見えている時間あたりの費用」は低いのが特徴であり、個人の富の象徴を誰にでも分かりやすく示す事ができるのである。
俗に新興富裕層や成金趣味の人々が目の前を飾り立てる事に役立つ優れたブランドである。
2.は、元来の事業の中核の製品ラインにあり、代表的製品にまだ名声があるとされているが、収益が上がらない場合や、ブランド自体に経済成長を確保するために、十分な売上を上げるのが難しい場合を指す。
また、市場が小さすぎる事で、高品質の製品を合理的に生産もしくは拡張する事ができない場合、ブランド力を上昇させる夢は元来の事業で達成しながらも、利益はその他の事業で生まれる。
1.の例で言うと、「ルイ・ヴィトン 」 と 「 オーデマ・ピゲ 」 の事例を挙げている。が、多くの人々にとってルイ・ヴィトンの方が分かりやすい。
ルイ・ヴィトンは、王族や超富裕層向けに特注品のトランクを作り、一般の人たちにとって、個性的で融通の利くバッグ や あらゆるニーズを満たすハンドバッグを作り分けている。
このふたつの市場をひとつに繋げているのが、使われている素材であり、所謂 「 モノグラム 」 である。
ルイ・ヴィトンが世界的に認識され、成功を収めたブランドの王者たる所以は、この釣り合いと相補性に基づいている。
一般的な中流階級の人々が、ルイ・ヴィトンの店舗で 「 モノグラム等 」 の同一素材の鞄を買い続ければ、本来なら高いブランド力と利益の維持は難しくなる。
ただ、世界中の王族や超富裕層が、LVマークの「 トランクやその他特注品 」 を買い続ける限り、ラグジュアリーブランドとして高いブランド力と利益を存続し続けるのである。
現在よりも過去のビジネスモデルであれば、王侯貴族や超富裕層が権力者として、ブランドを気に入り、パトロンのように庇護を受ける事ができた。
ブランドが少数だった時代は、王室御用達・富裕層御用達として、夢と利益を同時に追求できた。
現在の主要ブランド群の多くは、幸いにもラグジュアリーブランドとなれたわけだが、一方で時代を経ると共に、ブランド力を維持できないことも多い。
また、比較的新しいブランドでは、収益性の壁でブランドを維持できなくなる事も多いのである。
その場合、以前のビジネスモデルと異なり、利幅 (利益率・利益高でも) は「最も安価な製品」で作る必要に迫られたブランドも多くなったのである。
つまり過去の遺産で「 ブランド・バッジ 」を獲得したブランドの多くが、下位のライン ( より大衆に ) への拡充で利益を確保しているのである。
下記の図は、古典的なピラミッド型ビジネスモデルの典型例である。
古典的というが、現在でも多くの 「ラグジュアリーブランド」 は、このビジネスモデルの基本形を軸にブランド戦略を立てているといっても過言ではない。
どちらの方向を向いてビジネスをしているかが分かれば、現在のブランド力が認識できるのである。
ピラミッド型でみる “ラグジュアリー” の ビジネスモデル
ピラミッド図は非常に明確で分かりやすいのであるが、手前味噌で恐縮であるが、自分で作成してみた次第である。
基本的にオートクチュールメゾンは、最上級の独占ラインから、下へ拡大するほど安価で手に届くラインまでを連続したピラミッドで機能を構成している。
ピラミッドは、稀少で独自な作品で職人の手作り、価格が付けられない芸術作品からなる頂上で始まり、顧客と普及の両方が、下へ行くほど拡大される事をカタチで示している。
ブランドの夢は頂点で常に作り続けられ、下部にあるプレタポルテ・ライン、ファッションアクセサリー、腕時計、眼鏡、香水、化粧品等に至る様々な製品の上に滝のように流れ落ちる事となる。
また、この見えないビジネスモデル (ピラミッド) を維持するためには、全体のブランドコンセプトを常に顧客にヴィジョンとして伝え続ける必要があり、古来から雑誌や主要メディアがその役目を努めてきた。
現在では、雑誌や主要メディア以外に、動画を使った「 YouTube 」等でオートクチュールブランドの強力な武器となってきている。
無限ループされたキャットウォークを創作でき、いつでも好きな時に顧客は見ることができる。
つまり、自発的に映像を観に行くことと、主要メディアがこの時間にファッションショーを行いますので観なさいと言うのとまったく違う。
営業中も閉店後も、ファッションショーの様子が世界中でいつでも観る事ができ、広く大衆にブランドの神話を伝えるのが容易となったのである。
【LV】 幅広い流通を廃し上流から入門まで相補性の高いバランスの良いモデル
ルイ・ヴィトン マルティエに関しては、幅広い流通を廃し上流から入門まで相補性の高いバランスの良いモデルと言える。
このビジネスモデルを立て直したのは、ベルナール・アルノーであるが、モノグラムの相補性は、ブランドの世界で最も成功したモデルといっても過言ではない。
ルイ・ヴィトンのブランド戦略は【 LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンのビジネスの手法とコングロマリットの完成 】でも取り上げたが、スターブランドであるルイヴィトンを中心に、衛星上に様々なブランドが囲み、お互い相互補完しながら成長を維持している。
その成長の源泉がルイ・ヴィトンの成功なのである。
例で言えば 「 LVMH 」ができる前の ルイ・ヴィトン の企業ブランド価値は、1977年の時点ではほぼゼロに等しかった。
会社は7千万フラン、1千万ポンドで売りに出されたが、当時その価格で買うことに納得しなかったという。
08年の時点で、ミルウォード・ブラウン社によれば、260億ドルの価値があるといい、現在では、もっと数字は上がっていると考えられる。
ビジネスモデルから見ると、収益性が高い中核事業を持ち、長期間維持できるブランドビジネスモデルの理想形とも言える。
【CC】 品質と価格が降下していく階層ではなく高い収益性を維持する水平モデル
シャネルのビジネスモデルは独自路線である。最上部は、オートクチュールがラグジュアリーを占めるが、ブランドの各製品の世界観も、ラグジュアリーの世界観を共有している。
シャネルのオートクチュールの成功における最大の秘訣は、創業者「ガブリエリ・シャネル」がずいぶん前に亡くなっているが、ヘッドデザイナーである「カール・ラガーフェルド」が創業者「ガブリエリ・シャネル」と 並行して ブランドの維持に努めている点にある。
シャネルについての戦略については、【 Chanel シャネル、一代で名声を得て後に創業家ではない億万長者と一流のデザイナーが経営する新興ラグジュアリーブランドを完成 】でも取り上げたが、カール・ラガーフェルドによるシャネルの精神とクチュールメゾンの記号論の文法を非常に尊重しているからである。
故にシャネルのピラミッドは、品質と価格が降下していく階層ではなく、高い収益性を維持する水平モデルであり、眼鏡やシャツなど唯一の例外を除き、高い価格が維持されている。
シャネルの独特なビジネスモデルは、最初から狙ったわけではなく、ココ・シャネルの伝説の上に企業統治されている。
【ROLEX】 実用性を究極まで高める戦略で中心を深堀、高収益を獲得する専門モデル
ロレックス については、謎の多い専門性を極めた新興ブランドである事が特筆する点である。
多くの老舗ラグジュアリーブランドがありながら、卓越した先見性と時代を捉えるマーケティングセンス と 常に新開発と技術向上に挑戦し続ける製品戦略で、年を追うごとにブランド力を高めた。
腕時計の将来性に掛けたその戦略が抜群であり、働く人々のシーンに応じた実用性の高いモデルを一点集中し、深堀してから順次モデルを水平展開し、ほぼすべてを人気モデルとして並べ、ラグジュアリー・ブランドと成り得た。
またロレックスは、情報公開も少なく謎の多い企業である。最上部ラインは製品ラインの中心で固めたモデルを使って、受注対応か高額な宝飾系モデルを量産するのみで、大半が中心を形成している。
個人的にブランド戦略に最も興味があるのが「ロレックス」であり、その戦略が書かれた良い書籍があればいつか考察したい。
【pc】 広範囲な土台 “カルダン” というネーム、個人ブランドに近いモデル
ピエール・カルダン に関しては、ピラミッドの土台だけが残っているという。個人的に言うと、名前しか知らずブランドを保有した事がない。ネームバリューは抜群であり、その土台は広範囲に及ぶ。
ブランドの霊気は、カルダンがかつて偉大なクリエイターである時代の記憶と過去の栄光であって、多くの大衆にグローバル水準で 「名前の認知」され残っている。
このモデルは、多くは芸術家やクリエイターの個人モデルに近く、個人ブランドの最大形と言ったところであろう。少なくとも大企業の形を成してはいない。
【CD】 最上部でデザイナーが夢を創造 下層を大量に販売し収益性を維持するモデル
ディオール のピラミッドは、中央が細く、頂部と底部に比重が高いモデルである。過去に ライセンス 商法に手を染めた結果がビジネスモデルにあらわれている。
ピラミッドの頂部には、ジョン・ガリアーノ の創造力 (その時代を捉えたデザイナーを起用し) を活かし、ブランド力の維持に努めている。
底部においては、その多くは外部委託による生産されたアクセサリーが稼ぎ頭であり、大量の売上によって特徴付けられるというのである。
私も若い時に、二次市場の価値も大して分からずに、有名ブランドだからと言って下層モデルをよく購入したものである。
【LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン、ライセンスと自前主義との関係 】でも取り上げたが、ライセンスに手を染めたブランドを象徴しているのであるが、LVMHの内で呪縛からの復活を果たし、個人的には期待しているし、好きなブランドである。
【GA】 全階層を網羅する戦略で頂点を目指しヒエラルキーを重視したモデル
アルマーニ に関して言うと、非常に興味深いのが、05年までは、頂点のないピラミッドモデルであったという点である。
ブランドとしてはグローバルに成功したわけだが、オートクチュールの霊気はその時はあまり必要なかったのであろう。
アルマーニは、すべての ヒエラルキー を隙間なく埋める戦略を展開。
ジョルジオ アルマーニ (Giorgio Armani)、アルマーニ コレツィオーニ ( Armani Collezione )、エンポリオ アルマーニ ( Emporio Armani ) 相補的なライン底部に、アルマーニ エクスチェンジ ( Armani Exchange )、若者をターゲットとした アルマーニ ジーンズ ( Armani jeans ) に至る。
ラインが降下する順に組織化されている点が、他の高級ブランドとは一線を画す。
さらに下の製品は、多数のブランドを販売する店舗で、広範囲に商品ラインナップ ( 眼鏡・化粧品・香水 ) を拡充している。まるで日本の自動車メーカーのようである。
ジョルジオ・アルマーニは、その後頂点を創造する戦略を展開していく。頂点がなければ、長期的なブランド維持について難しくなると判断したのであろう。
アルマーニ/プリヴェ ( Armani / Prive ) というオートクチュールメゾンをパリで立ち上げ、ラグジュアリーブランドへのさらなる挑戦をしていくのは、非常に困難な道であるが、ある意味正しい。
ジョルジオ・アルマーニの才能と財務的な堅固さにおいては流石と言える。
ラグジュアリーブランドのビジネスモデルを崩す二つの危険性
ピラミッドのビジネスモデルに限らず、頂点の芸術における領域から商売への領域に近づくほど、頂点から離れるにつれ、創造性が希釈化されることがある。
その場合、ビジネスモデルが崩壊する二つの危険性が増す事を伝えている。
- 中核事業の衰退もしくは権威の喪失による創造性の喪失と他事業への誘惑
- 早く儲け結果を求める投資家の過度な要求とライセンスビジネスへの誘惑
1.に関して言うと、稼ぎ頭である中核事業が、何かしらの理由で収益性が鈍化し、売上が下降線を辿った場合に、中核事業への創造性を失くし、他の儲かるかもしれない事業へ軸足を移し続けることである。
軸足を移し、次の中核事業となり得る事業が、仮に成功し、その中核事業で再び失速した時、また中核事業を探す事をはじめてしまうのである。
つまり、何屋かわからなくなってしまうのである。
本書では、STデュポンの例を挙げている。デュポンの元来の事業は煙草用のライターであるが、これが廃れてしまった時に、万年筆に軸足を移し、最初の事業転換は成功した。
二つの事業には、技術段階と流通チャネル段階の両方において非常に近接して似たカテゴリーであった事である。
これに味をしめたのか次に正当性を欠いた製品の多様性に事業を導いてしまう。
過去の栄光からか、自社のコア・コンピタンスと掛け離れた「皮革製品と繊維製品」へと参入してしまい、大きく失敗してしまったのである。
2.に関して言うと、高い利幅の製品から比較的「気軽なお金」を得てしまうと、ブランドの名声を維持している限り、収益性の高いマスマーケティングという安易な解決法を導いてしまう。
この手のブランドが、投資家によって方向性が左右されている場合、自社の収益性、経済安定性が脆弱なブランドは、早い結果を求める傾向が強くなる。
自らのクリエイティブを与えた上で、ライセンス商品を増やし、クリエイティブな才能をライセンシーへ供与し、原価が低く製造できる安価な対象国に製造を委託したり、自らを移転してしまうことである。
これについては、ライセンス商売に手を染めたり、アウトレットの矢継ぎ早の製品投入をするブランドがこれに該当し、投資家の最大利益のみを追求した営利企業へと変貌したりするのである。
私たち顧客が出来る事と言えば、購入前に調査して、上記の誘惑を受け入れたブランドを避ける事で、比較的失敗の少ないブランドを選択できるのである。
参照:ラグジュアリー戦略―真のラグジュアリーブランドをいかに構築しマネジメントするか