【ラグジュアリー戦略】マーケティング逆張りの法則:顧客がブランドアイデンティティを脅かす場合要望を取り持つ必要はない
世界で賞賛されるラグジュアリーの条件は、一つ目に明確なブランドアイデンティティ、二つ目に、長期的視点に立つ安定した経営、三つ目に、首尾一貫した技術と製品崇拝をもたらす優れた企業文化となる。
欧州系ブランドはその明確な条件で多くの高級ブランドを長い期間生み出してきたが、書籍で取り上げている参考企業をBMWを事例にして、ラグジュアリーとは何かという事を記している。
BMWは、他のクルマでは味わえない運転する喜びを、違いが分かる人に対して売っているのである。
BMWの成功の裏には、意外な事実があるという。それは自社で設定した明確なビジョンに合わない顧客要求に抗ったおかげであるというのである。
それは決して、顧客の事を考えない方がいいということや、顧客の声に耳を傾けない方がいいという事を意味する事ではなく、ブランドアイデンティティを脅かす事を聞かなくて良いという事である。
従来企業は顧客の要望からはじまりラグジュアリーはクリエイターの心からはじまる
本書では、顧客の要望を聞いて純粋さを失う場合があると示しているが、綿密に計算し、設計された均整が崩れたパターンとしてジャガーE-タイプを挙げている。
審美眼から得られたボディデザインは、ジャガーお得意の手法であったが、顧客の要望で、後部座席に二人が十分乗れる大きさとしたため、売上が伸び悩んだというのである。
ラグジュアリーは時を経ても、すべての製品ラインの中に一貫性を保ち続ける必要があり、ひいてはブランドの真正性、魅力、神秘、生気を保証しているから、高額のお金を出して購入している側面もあるのだ。
顧客の要望を全て聞いた完璧と思われる商品であれば、もうすでに違うプレミアムブランドで、手に入れている事であろう。
従来型企業のマーケティングは、顧客の要望からはじまる事が多くあり、ラグジュアリーブランドとはまったくアプローチは異なっている。
高額なラグジュアリーブランドを買える経済力がある事から、要望のアプローチにおける製品はいらないのであり、クリエイターがブランドの魅力を引き立て、昔から変わらないアイコンとしての一貫性を継承しながら、顧客の期待をさらに超えた製品を送り出す事が重要なってくる。
そういう意味では、顧客の要望はさらに後なのである。
ラグジュアリーブランドにおける破産に至る 2 つの道のり
ラグジュアリーブランドには、2つの破産に至る道のりがあるという。ひとつは、顧客の声を聞かない事であり、ふたつめは、顧客の声をあまりにも聴き過ぎる事である。このような関係は、ポストモダンのラグジュアリーでよく見られる。
歴史的に見て、ラグジュアリーは、希少な材料などを使った、才能ある職人の創作品である。
職人はそれを頼んだ顧客や後援者から歩合を受けていた。これらの職人はその時代では名を知られていたが、名声は持続しなかったわけである。所謂宮廷の職人的な位置づけである。
ところが、フランスの18世紀終わりになると何もかもが様変わりし、パターンが売れてしまう前に、多く作っておき、広く販売するという考えを誰かが思い付いた後では、職人は製作を頼んだ顧客や後援者がいるわけでないので、歩合は必要なくなり、顧客が好きに注文し、職人はなんでも聞くという関係は劇的に逆転するようになる。
職人が顧客の元にアタマを下げに行く必要もなく、人々が職人のところに、最新コレクションや新作を見に行くようになったのである。
名も無き職人の時代は遠い昔のこととなった。ラグジュアリーというのは最新のコレクションを発表するという慣習が生まれたところが、他のブランドと一線を画す。
現在、職人と顧客の関係は、昔と同じように、職人という作るだけの人々が、それと同時にデザイナーの管理化に置かれるという名も無き職人もいるが、創造溢れるヘッドデザイナーとその作品を表現する従者とそれを見て購入するファンという位置づけに変わったわけである。
上手く時代に適合したラグジュアリーブランドは、顧客の声を聞きながら、顧客の声をあまり聞かないという、絶妙なバランスで破産を防いでいるのである。
参照:ラグジュアリー戦略―真のラグジュアリーブランドをいかに構築しマネジメントするか