日本光学工業:ニコン 35Ti NIKKOR 35mm F2.8 銀塩コンパクトフィルムカメラ
レンズシャッターカメラという、極めて身近なスタイルに、撮影者の期待に応える表現力と、所有者の欲求に応える美しさを兼ね備えることはできないだろうか。カメラのあるべき姿の、一方の頂点を目指すこだわりの作業はここから始まりました。親しみやすく、軽く、コンパクトなデザインに。創作意欲に応える選りすぐりの機能と高水準の性能に。そして、流行に左右されない美しい造形に。その一つひとつに、私たちの深く強固な思いがこめられています。使うことに、そして持つことに、大きな喜びを感じていただくための、これは、ニコンからのひとつの回答。いいカメラをお持ちたいとお思いの、全ての方々へ。Nikon 35 Ti / 参照:Nikon 35 Ti カタログ
- 市場投入:1993年
- レンズ:Nikkor 35mm f / 2.8高品質レンズ
- 外装:チタンボディのノンフリル – 軽量・強固でしっかりした、耐腐食性能。
- 表示:時計のような外観アナログ表示システム
- センサー:6セグメントマトリックスセンサーによる3Dマトリックスメーターリング
- 露出モード:プログラムオート[P]と絞り優先オート[A]モード
- 内蔵パノラマ:(13 x 36mm)モード
- その他:カスタム関数
- バッテリ:1つの3V CR123A(またはDL123)リチウム
- 価格 (当時):チタンボディ 125,000円
参照:ニコン- イメージング製品- Nikon 35Ti Quartz Date
今回は、ニコン 35Ti について語っていきたいと思う。物理か何かの教師である知人の父親が、 生前カメラが趣味で、実家に大量のコレクションを所有しており、現在 遺品整理などをしているので、いらないカメラが大量にあるので、良ければ譲りたいという事で、ぜひ来てほしいと頼まれた案件である。
知人の父親も教師で、生物か科学かの何らかの教師をしていて、フィルムカメラを使って、実験している対象物を多く撮影していたようだ。
知人の実家に行くと、部屋の一部を実験室のようにしていてのだが、同時に趣味である大量のジャンクカメラが放置され、片付けの真っ最中であった。
透明の粗大ごみ用の袋に、往年のモデルであるコンパクトフィルムカメラやレンズ、その他撮影機器を容赦なく放り込んでいく知人。
どうやら知人及びその親族は、カメラに興味がないようだ。これを全部捨てるのかと聞くと、知人はそっけなくこう答えた。
このカメラたちの一部をゴミ袋に入れて、買取店に持っていき、そこで、約 500 円にもならなかったので、それだけをその場で買い取ってもらい、あとは持っていくだけ面倒で手間が掛かるから、そのまま捨てるというのである。
私は、容赦なく捨てられるカメラをしのびないと思い、いくつかの稀少で高価なモデルを選び、少し譲ってもらったのである。
その中の一台で、特にコンパクトモデルで欲しいと思ったのが、今回のニコン35Ti モデルだったのである。
相場は底堅くじわじわと平均価格が上昇している目立たない成長市場
上記のデータは 「旧オークデータ (2018.06.30終了) 」 で、コンパクトフィルムカメラのカテゴリー約 5 年間の平均落札額を調べてみた。
比較的安定しているが、少しづつであるが、じわじわと上昇している。昨今のコンパクトフィルムカメラ市場の底堅い人気が数字に表れている。
コンパクトフィルムカメラ市場においては、その手軽さと使いやすさで、着手しやすい趣味のひとつになりやすい。
ただ、そのほとんどのカメラは、調整ないし、修理を必要とするモノが多く出品されている。それでも市場が衰えず、修理して使い続ける一定の層に支えられているのも、なんとも微笑ましい。
思い入れのあるモデルを長く使い続ける。数字は表層的であるがそう信じたい。
続いて「オークファン 」で約 5 年間の取引相場をざっくりとみていこう。上位落札は、約 7 万円程度で、比較的高額に落札されている。
高額に取引されているのは、未使用品であり、完品の状態のモノを指しているようである。また、上位落札については、美品・即使用可能なのも高額取引としても有効である。
付属品類においても、当時のまま綺麗な状態のモノなどで、フルセットに近ければ近いほど、現在でも高額に取引される。
今回、個人的に譲ってもらったモデルは、シャッターがおりす、動かない状態なのだが、比較的本体は綺麗な状態である。
そこで、今回も業者に依頼をかけ、軽くレストアし、付属品を集めることで、比較的高額に取引されると考えられる。
NiKON 35Ti それは、時代を超えて美しい。
日本光学工業 は1917年設立。戦時中は光学機器一連の事業を行い、双眼鏡、距離計、潜望鏡などの軍事機器を製造していた。
第二次世界大戦後、民間市場に参入。光学分野のノウハウを以て、キャノン向け等にカメラレンズを法人受注を行った事から、参入市場に「カメラ」に狙いを絞る。 昭和63年 社名を 「ニコン”Nikon”」 に改称する。
ニコンをパッとみて感じるのは、時代を超えて美しいとは何かと常に問いかけ、 カメラらしさを追求した結果として、再び原点へとたどり着いた、着飾らない端正なフォルムである。
当時のコンパクトカメラの最高級機に相応しい、上質な手触りと精巧なメカニズムを提供しながらも、強靭でしかも軽くつくられている。
外観素材のチタン・ボディが表面を覆いながらも、当時は挑戦的な新しい試みであった外装面。その外装面上部に、懐かしさや親しみを感じさせる、4本の指針を備えた精工舎製のアナログディスプレイを搭載している。
さりげない佇まいでありながら、普遍的な美しさを持っており、現在でも所有することへの深い喜びをたっぷりと味わえる。
比類ない描写力である高性能 ニッコールレンズ
ニッコールレンズという名称が誕生したのは 1932年である。35mm カメラ用に最初に設計されたニッコール 5cm F3.5。当時はミリではなくセンチで表示されていたが、完成したのは1935年7月である。
以来、幾多のプロカメラマンに愛され、世界中の写真愛好家に親しまれながら、製造された1994年当時で、累計 約 2300万本という驚異的な販売実績を誇るニッコールレンズを Nikon 35 Ti は搭載している。
高い描写力を実現したレンズ構成である 35 Tiの搭載レンズは、ニッコール 35 mm F2.8を採用。
一眼レフカメラのように、ミラーボックスを考慮に入れて、バックフォーカスを長くとる必要がないため 4 群 6 枚構成のレンズを絞り羽根の前後である。
レンズ形状は、対象に極力近づくように配置することによって、各収差を良好に補正するとともに、像面の平坦性と自然なボケ味を確保。無限遠から至近まで収差変動の極めて少ない、安定した結像性能を達成している。
さらに、高い屈折率低分散ガラスを使用し、これにニコン独自のマルチコーティングを施すことによって、逆光時のフレアーを最小限に抑えたクリアーな描写を実現。
一眼レフ用交換レンズとほぼ同等の優れた光学性能が高い描写力を発揮している。
ニコンが表現したいイメージは、以上のとおりだが、カチッとしたシャープな印象をではなく、シンプルな発色で優しいイメージを達成している。
また、デジカメに置き換えて例えて言うなら、彩度が低く、階調性が豊かで滑らかな仕上がりを提供してくれるのである。
上記の写真で確認できるのは、携帯性に配慮しボディ内に格納される沈胴式を採用し、レンズを格納できるようになっている。
高い光学性能描写力を確保しつつ極限まで小型化を実現。セレクトダイヤル OFF 時には、レンズが格納され、レンズバリアがレンズをしっかりと保護する。
軍艦部の個性的な追針式アナログ表示部 / フラッシュ / パノラマ機能など
カメラボディの軍艦部にある、視認性に優れたアナログ表示部は、撮影に必要な情報を 4 本の指針で表示。夜間など暗い時には、イルミネーターボタンを押してランプを点灯させることもできる。
① フィルムカウンター表示面
通常は、指針がフィルムの撮影枚数を示します。フィルムの巻き戻し時や、セルフタイマー撮影時には、その状態を示す。長時間露出(タイム)撮影時には、シャッターが開いた瞬間から、指針が最高50秒までの時間をカウント。
② プログラム表示 / 絞り値表示
プログラムオート撮影時には、その時にカメラが設定している絞り値を指針が示す。また、絞り優先オート撮影時や長時間露出 (タイム) 撮影時には、絞り値の設定確認ができる。
③ オートフォーカス表示 / 遠景表示 / 撮影距離表示
オートフォーカス撮影時には、その時にピントが合っている地点までの距離を指針が示す。マニュアルフォーカス撮影時には、撮影距離の設定確認ができ、指針を遠景表示に合わせれば、シャープな遠景撮影が行うことができる。
④ 露出補正表示
露出補正を行った場合に、露出補正値を指針が示す。
⑤ マニュアルフォーカス機能
③と同様に、オートフォーカスでは、ピント合わせのしにくい被写体を撮影する時など、撮影者自身が被写体までの撮影距離を 13 段階で手動設定できるマニュアルフォーカス機能も搭載。遠景モードに設定すれば、窓ガラス越しの遠くの風景も鮮明に再現する。
上記、パノラマ外部切り換えは、ファインダー横のパノラマ切り換えスイッチをスライドすれば、フィルムの途中からでも標準撮影、パノラマ撮影を自由に切り替えることができ、ファインダー内の撮影サイズ表示もパノラマ切り換えスイッチに連動している。
左側写真の自動発光面は、被写体が暗い場合や逆光の時シャッターボタンを半押しすると、ファインダー内に発光予告マークが点灯。
そのままシャッター を切れば、内蔵スピードライトが自動発光。
プログラムオート時は、フラッシュマチック方式により被写体までの距離や背景の明るさに応じて絞りを自動制御。
また、絞り優先オート時は、設定絞りで制御。それぞれの持ち味を活かした撮影が可能となる。
右側写真の強制発光 / スピードライトキャンセルボタンは、スピードライトの自動発光が行われないような状況でも、好きな時でもスピードライトを発光させて撮影することができる。
夕方の景色や夜の景色を背景にした人物撮影を行うときに使用すれば、人物の背景のバランスよく再現できる最長1/4秒までのスローシンクロ撮影が行える。
逆に、スピードライトの自動発光が行われるような状況でも、これをキャンセルして、最長2秒までのスローシャッターで撮影が行える。
また、夕方の景色や夜の景色などをそのままの雰囲気で撮影したいときや、舞台撮影などスピードライトの使用が禁止されている場所での撮影に有効に機能する。
参照:1994 / ニコン 28Ti/35Ti 純正オールカラーカタログより一部抜粋
中古コンパクトカメラ市場は、水面下で着実に上昇し続ける比較的静かな成長市場
上記「旧オークデータ (2018.06.30終了) 」で、コンパクトフィルムカメラの 約 5 年間の総落札額及び総落札数を見ていこう。
総落札額は、5年前ほど前は、約 1,000万円前後であったが、現在では、約 4,000 万円近くと、約 4.0 倍と急激に成長している。
総落札数は、長期間 約 1,500 件ベースで一定で推移していたが、現在では、約 3,500件に迫る勢いであり、約 2.3 倍の伸びを示している。
この事から、中古コンパクトカメラ市場は、水面下で着実に上昇し続けるあまり目立たないが成長市場であることが分かる。
数年以上前、同じく多くの種類のコンパクトカメラを査定に出したことがあったが、まったく取り合ってくれず、買取すらしてくれなかった。
ところが現在では、カメラ買取専門業者を中心に、比較的高額に買取に応じてくれるようになったのである。
いくつかの中古カメラを売却する中で、現場での肌感覚で知ったのだが、改めて数字を追うと、如実に市場が出来上がりつつあるのが分かってきたのである。
では、レストア費用に関して記していきたい。本体に関しては廃棄寸前であったので、そのまま引き取りでコストは掛かっていない。
可動しなかったので、その後、地元のカメラ修理業者に持ち込み、シャッター系統や各種部品の調達と修理、内部のクリーニングなどで、約 6,500円でレストア。
付属品などを知人のカメラ愛好家から調達して、約 1,500円で安価に調達。カタログなどの資料をオークションで購入したので、約 1,000円。
合計で、約 9,000円前後のレストア費用が掛かった。
当初、自分で使っていくつかテストを行いながら、クセや大よその使用感を掴めたが、価値があり良いモデルであると思うが、自分的には好みの問題で、最終的に手放した。
買取査定に出すと、約 41,000円ほどで引き取ってもらった。約 4.52倍の市場価値をつけて、再び市場に送り出したことになる。
業者は、約 55,000円前後で売るようだが、あとで聞いた話では、オークションと店頭で同時に出していて、最終的に店頭で、ご年配の方が昔を懐かしみ購入したようである。
シャッターを切るとは、現在の歴史を残すといってもよく、個人の歴史の瞬間を切り取るカメラという優れた道具には、いつも驚嘆させられるばかりである。
廃棄寸前で、寿命を終えたかもしれないニコンモデルは、ファンであるその人の思い出の記録をもう少しだけ残し続けるのである。
どうか素敵な写真ライフを楽しんでもらいたい。