【バリューダンス:Value dance】綾の証明 -Aya Reveals- 第一話 グランドエイコーの黄昏 2 :清水官兵衛の呪縛

【バリューダンス:Value dance】綾の証明 -Aya Reveals- 第一話 グランドエイコーの黄昏 2 :清水官兵衛の呪縛

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清水官兵衛 三代目

 

【バリューダンス:Value dance】綾の証明 -Aya Reveals- 第一話 グランドエイコーの黄昏 2 :清水官兵衛の呪縛

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依頼受けてから 3 日間、私は長く幻と言われた懐中時計の情報とそれにまつわる清水家の情報をできる限り集めた。綾君に日々の業務を任せ、私は関係者などに聞いて回り、出来る限り現場に出向き情報収集につとめた。

一方、綾君は少ない情報から机上で考えることが何より得意で、たちどころに真相を見抜いてしまう鋭い観察力と推理力を持っている。これは私と正反対であり、だからこそ綾君との仕事は驚きに溢れ、不思議な感覚にとらわれた後、スッと落ちるような安堵感が得られる。そう思いながらも店の前に着いた。私は軽快に店の玄関を開け、彼女が事務をしている机の前を歩きながら調査した結果を報告した。

「知人の大学図書館で、過去の新聞記事を見てきたよ。最近では、新聞社が過去の新聞のすべての記事をデータ化してくれるので助かるよ。幻の時計があった東京工場は、昭和20年の東京大空襲で焼失している。その東京工場の跡地に立っている新工場の近くに住んでいる当時のことを知っている引退されたご高齢の元従業員の方に東京まで行って話しを聞いてきた。」

私は饒舌になり、おそらく得意げな顔をしていることであろう。

「その日は、工場で軍需品をつくる仕事をしている最中に、突如空襲警報が鳴り、皆慌てて避難したそうだ。しばらくしてから帰ってくると、工場は全焼しており、跡形もなくなっていたそうで、金庫に収納していた懐中時計も、その時焼けて破壊され、そこからは誰も見たものがいないということだ。」

私は自分の机に戻り、鞄の中から資料を取り出し机の上に置き話を続けた。

「ここからは僕の推理だが、矢部銀次郎氏が後年収集を開始したコレクションの中から見つかったという事は、矢部氏が密かに類似品をつくり、それを当時作られた本物として世に出そうとした可能性がある。約四十年前のグランドエイコー社は、深刻な経営危機に陥っている。それで当時の財務記録などを調べてきたが、自社ビルをはじめ自身の財産の処分もかなり行っていて、あの懐中時計を競売に掛けることで、自社を倒産の危機から逃れるために資金を作ろうとしても何も不思議ではない。これで贋作とした理由の筋が通るだろ。」

私は、綾君に自信たっぷりに調査報告並びにそれに導かれる推理を伝えた。伝えたと同時に、彼女は機械音声のようにスラスラと話はじめた。

「はたしてそうでしょうか。経営危機の緊急事態なら、贋作をつくるまでの時間と手間が掛かり過ぎると思います。また、お金目的であれば、銀行や投資家から追加融資を依頼すればいいと思います。これは推測ですが、空襲が来る前に違う場所に移しておいて、別の場所に保管されていたとしたら、今でも残っていても不思議ではありません。当時を知っている矢部銀次郎やその家の者が皆亡くなり、その隠していた場所がわからなくなる。一般でもよくある遺品整理をする時の単純な話かもしれません。必ずしも清水氏が言うように贋作ではないかもしれません。」

「フフッ…私もちょうど同じことを考えていたよ」

私は、若干顔を引きつらせながら遠くを見つめながら答えた。綾君は、目を細め、能面のような美しい顔で、私を軽蔑するような表情でじっと見つめていた。

 

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「ところで、もうひとつ分かったことだが、グランドエイコー社の前身、矢部時計製造所の創業仲間に誰がいたと思う?」
「清水さんですか。」
「あたり。超高級プリンを買ってきたが、一緒に食べないか?」

私は、綾君の機嫌をとるため、さりげないサプライズを用意した。この地域でも評判高い「輝炎堂」の名物プリンを彼女に差し出した。

「それはともかく、もしかすると清水氏は、あの懐中時計にかかわったのかもしれませんね。」

綾君に軽く一蹴されながらも、私はプリンを袋から出し蓋を開け、木製のスプーンで固形物をすくい 口いっぱいにプリンを頬張った。この深みと甘みは独特で、やめられない秀逸な味である。

「ああ。それは同感だ。従業員によると矢部銀次郎氏は、基礎的な技術はあったそうだが、経営や販売の方が得意で、高度な技術は優秀な職人集団に任せられていたらしい。清水氏が開発製造に関わっている可能性は大いにある。」
「そこで、あの懐中時計について、何かのトラブルがあったと考えて良さそうですね。」

綾君は、左側の一点を見つめながら、木製のスプーンを左手で持ち、腕を組んでいた左手を顎に手をやり考えていた。

「そこだよ 綾君。その後、清水氏はしばらくしてから製造所を去り、自分の工房を創業したのだが、いくら技術が一流でも一介の職人が仕事を獲るのは非常に難しかった時代だ。ただ、清水氏の場合、最初から羽振りがなぜか良かったそうだ。」
「製造所から何かしらのリベートをもらっていた。」

私は、五個入りのプリンセットを買ってきたのだが、すでに三個目に突入しており、四個目のプリンに着手しようとした瞬間、彼女は左手で持っていたスプーンの柄を私の手の甲にいきなり突き刺してきた。

「調子に乗って食べ過ぎだぞ。今度はコーヒーも一緒に買って来いよな。」

ニュース原稿を読む女性アナウンサーのような滑らかな活舌で、いつもどおりよく通る声を使い無表情で私に言った。激痛が走る中、小さくこうつぶやくしかなかった。

「一応社長なんだが…」

綾君は、目を細め、再び能面のような美しくヤバイ顔面で、私を軽蔑するような表情でじっと見つめていた。どうやら機嫌は取れなかったようである。スイーツの件で揉めそうだったので、少し早めに仕事を切り上げ、私たちは清水家唯一の親族、清水官兵衛三代目に会いに大阪市街にある清水時計修理事務所に行くことにした。

 

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清水時計修理事務所は、その地域の大きな商店街を少し抜けて、住宅街と工業関連が混在する地域に建てられた三階建ての大きな自社ビルで、一階は、受付事務並びに応接、資材や部品倉庫、二階は修理職人の作業場、三階は、従業員関連と社長室となっており、外装がレンガ造という古い倉庫のような事務所ビルであった。私たちは、三階の社長室に通され、清水官兵衛 三代目と初めて対面した。

清水官兵衛 三代目は初代と違い、仙人のような容姿ではなく、スラっとした中年の紳士で、髪型はキチっとした七三分け、細目で面長の顔、柄の太い黒縁メガネを掛け、唇は大変薄く、しっかりとした四角めの顎、服装はワイシャツとネクタイ、細目の紺色のパンツ、磨き込まれた上質な革靴を履き、上着は医者が着るようなロングの白衣を羽織って立っていた。

「中井貴一」と綾君は私の後ろでよく通る声でつぶやいた。
「ああ、どうも。これは佐伯さんですね。」
「はじめまして。佐伯です。」
「後ろのお嬢さんは誰です。」
「ああ、これは私の助手の如月君です。」
「あなたぁ、さっき中井貴一と言ったでしょう。でも、私の方が若干男前だと思っていますよ。矢部財団の依頼…いや、あの狡猾な女から頼まれて偵察に来たのでしょう?」

私は少し動揺してしまったが顔には出さず、淡々と質問をぶつけた。

「単刀直入に言いましょう。あれをなぜ偽物と執拗に訴え続けるのです?」
「佐伯さん。これはね、私たち清水家の四十年間の重要な問題で、初代の遺言なのですよ。」

言葉の節目に感じる圧倒的で自信のある語り口に、私たちは少し不安を感じるのであった。

「実を言うと、祖父があの懐中時計を偽物と言い出してから、私たちが持っている知識と技術の粋を集めてあの懐中時計を真贋しましたが、結局は分からずじまいです。」

彼は歩き出し、背を向けて腰ぐらいの高さがあるカウンターに置いてあるクリスタルデキャンタをとり、隣にあったロックグラスに水を注ぎ、静かに飲み干すと、再び話をはじめた。

「四十年前、当時私は学生でしたがあの日はよく憶えていますよ。祖父がおかしくなる瞬間に、偶然立ち会ったのですからね。私は学校から帰り、珍しい時計を見せてもらうために事務所に遊びにきていました。亡くなった父親、官兵衛二代目がこの事務室で、あの懐中時計のオーバーホールの最中でした。ある程度まで分解掃除を終え、どこをどうみても故障や劣化などもなく、それは綺麗な状態で、なぜ修理に出してきたのか不思議でしたが、何も異常がないので、元に戻すことになりました。」

清水は、持っていたグラスを静かに置き、再び歩きながら話をはじめた。

「父が作業を完了したところに、祖父が事務室に入ってきました。祖父は軽く作業机をのぞき込み、父と軽く話した後、あの懐中時計を手に取り、昔を懐かしむように眺めていました。ところが、祖父がその時、いままで聞いたことのない絶叫をはじめたのです。」

清水は、美しい黒張りの応接セットに片手を差し出し、椅子に座るように促した。

「絶叫を始めたかと思うと、そのあと”私の人生とは何だったのか”と悲しみ、”こいつは偽物だ”と叫びながら半狂乱の状態で私たちに退席を命じ、そのあとしばらく部屋から出てくることはありませんでした。あんな祖父を見たのはあの時だけです。それからというもの祖父はこの事務室を占領し、亡くなる直前まで一人この部屋に籠りきりとなりました。」

私は次の質問のため、口を開こうとした瞬間、綾君がすかさず質問を投げかけた。

「その理由をおじい様より聞いたのですか。」

私たちが知りたい核心を突いた端的な質問である。しかし近くで見ると本当に中井貴一に似ている。

 

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「それが分かればすべて解決するのでしょうが、残念ながら理由はまったく教えてくれませんでした。祖父はその後、精神が参ってしまったので、マトモに口が利けない状態でした。私たちは代理人を通じ、矢部家にあの懐中時計は偽物であると伝え、現在まで世間では行方不明ということになっていますが、問題は平行線のままです。」
「でも証拠がなければ、偽物ということを主張できないでしょう。」

間を置かず純粋に疑問を問いただすように伝えた。

「あれはね、佐伯さん。確実に偽物と言えます。私たち親子は、祖父が亡くなる前に遺言を聞いています。遺言では、あの懐中時計はもうひとつあり、祖父が矢部銀次郎に贋作の懐中時計を渡したからだというのです。そうです。あの懐中時計を製作したのは、矢部銀次郎ではなく祖父が製作したものなのです。」

私は、驚きを隠せない為か、眉間にしわがより平静を装うのに必死だった。

「私たち親子は、祖父がつくったもうひとつの懐中時計を探しました。ただどこをどう探しても見つかりません。少し前に親父は亡くなってしまいましたが、先日状況が一変したからです。私たちはついに本物をみつけたからです。祖父は、錯乱して嘘をついているわけではなかったことが証明されたのです。」

私は、綾君の方をチラリと見たが、彼女の美しい顔に眉間に深いシワがより、考え込むように一点を見つめていた。

「それをどうやって見つけたのですか。」

綾君は、淀みのない機械音声のようなよく通る声で質問をする。

「親父はね非常に優秀な人間でしてね。実はこの建物、祖父が戦後のドサクサで安価に購入し、元々はアパートを増改築した建物なのですが、原図などもなく、その都度 増改築を繰り返しており、長く建物の正確な詳細は分かっていませんでした。そこで親父は、建物をすべて正確に測ったのです。」

清水は、椅子から静かに立ち上がり、歩きながら私たちに背を向け話をはじめた。

「父が測量を行い、私が精密な図面を作りましたが、ある面だけが足りませんでした。それは高さです。三階建てに見えたこの建物の上部に、小さな隠し部屋がある事が分かったのです。」

清水は、再び振り向きながら、希望にあふれた清々しい顔を見せながら、さらに話をすすめる。

「私は屋上に通ずる階段室の壁に穴をあけると、隠された小部屋があり、いくつかの荷物が散乱していましたが、古びたアタッシュケースのなかに、その懐中時計があったのです。この部屋の天井の…ホラあそこにある右側の一角を開けて、小部屋に行き来できるようになっていました。」

清水は、座っている私の肩に左手を置き、左側の私を見下ろすように見つめながらいった。

「本物をみたいですか?」
「もちろん。」私はすかさず答えた。

清水は、自身が座る大きな机の横にある収納棚の鍵を開け、A4サイズ程度の古びたアタッシュケースを応接の机に静かにおいた。

「どうぞこれです。これが本物です。」

ケースに収納されたやや大きめの懐中時計は、鍋島奈央子が持ってきた懐中時計と同じく美しい装飾が施され寸分も違わない外装をしていた。私たちは驚きを隠せず、その美しさとさらに深まる不安で、開いた口がしばらく閉じることがなかったのである。

3 に続く

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About PG編集:道長

食べる事と寝る事に一生懸命な旅人。 世界は感染症や戦争で混沌としておりますが、平和になったら平和な国を旅をしたいと準備しております。 先代の管理者様より、サイト管理・記事制作を委任しております。 ※現在は写真提供をして頂いております。

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