いまや欠かすことのできない巨大ネットメディア”YouTube”
私たちが日頃からお世話になっている「YouTube」ですが、いまや生活に欠かすことのできない新しいメディアとなっている。「YouTube」が台頭する前、私も含めて高級ブランドのプロモーションビデオや、ショートフィルムを視聴する際のメディアといえばテレビであった。
また各ブランドがリリースするビデオなど、最近の情報を得るには、時間を掛け調べて、はじめて視聴できたものである。「YouTube」の登場以来、各高級ブランドは、こぞって公式チャンネルを持ち情報の発信を行なっている。
そしてネットにアクセスすれば、瞬時にプロモーションやショートフィルムなどを簡単に視聴できるようになったわけである。
【Chanel 公式 YouTube】 CHANEL – YouTube
そんな中で非常にフィルムづくりの上手いブランドにシャネルブランドがあるが、大半のフィルムの構想・脚本・監督をヘッドデザイナーのカール・ラガーフェルド氏が担当している。
彼は彼の心の中にあるココ・シャネルというブランドイメージを作り出す事に長けており、さながら映画を観ているようである。
そこで今回は、シャネルの巧みなプロモーション戦略から学ぶ、まるでドラマのように観れるシャネルブランド・ショートフォルム動画を個人的に良いと思った作品を紹介したい。
すべてはシャネルブランドの思想とイメージを顧客に植え付けるという巧みな戦略とカールらしい洒落た演出も好き嫌いがあろうが、シャネルの強烈なイメージの映像化に成功している。
シャネルブランドとしての公式のイメージであり、ブランドとしてどう「魅せたいか」という視点で眺め、あなた自身がブランドをつくりあげる過程で、ブランド戦略を展開する場合「私ならこう撮る」的な監督目線で視聴すると視野が広がる事であろう。もちろん、単純にシャネル好きな方は、楽しんでリラックスして視聴してもらいたい。
“Reincarnation,” film by Karl Lagerfeld ft. Pharrell Williams, Cara Delevingne & Géraldine Chaplin
シャネルのショートフォルム”Reincarnation,”は、カール・ラガーフェルドが監督した秀逸なプロモーション動画であり、アイデア満載の出来である。モデルのカーラ・デルヴィーニュとファレル・ウィリアムスが共演してダンスと歌を披露する。
輪廻転生を意味する事から、ココ・シャネルの人生の一部を切り取りながら、ヒントを得た事により作り上げたようである。
1954年ココ・シャネルが、休暇中のオーストラリアのザルツブルク郊外のホテルで、エレベーターボーイの制服を見て、シャネル・ジャケットの着想を得るというもの。
ココ・シャネルを演じる ジェラルディン・チャップリンはチャーリー・チャップリンの娘である。
エレベーターボーイの制服が、シャネルの象徴、普及の名作となるシャネル・ジャケットの起源となるストーリーを描いている。
“Once Upon A Time…” by Karl Lagerfeld
シャネルのショートフォルム”Once Upon A Time…”は、カール・ラガーフェルドが構想・脚本・監督したシンガポールで発表したショートフィルム。成長著しいアジア市場で、若きココ・シャネルが自立しビジネスで成功していくブランドストーリーを紹介する。
約100年前の1913年に、ガブリエル・シャネルが、パリ・ドーヴィルに開店した小さなブティックをオープンさせ、徐々にビジネスを軌道に乗せるまでの物語であり、シャネル100周年記念で制作されている。
若い時のココ・シャネルは、キーラ・ナイトレイが演じている。上映の翌日には、シンガポールで 2013-14年 「クルーズコレクション」を発表している事から、アジア市場の攻略を考え、欧州で伝統を持ちながらも、若いブランドイメージを植え付け、自立する女性への憧れのブランドとして想起させる為のブランド・イメージ戦略がなかなか効いている。
“The Return” by Karl Lagerfeld – The Film
シャネルのショートフォルム”The Return”は、上記、若き日のココ・シャネルを描いた”Once Upon A Time…”に続くカール・ラガーフェルドが構想・脚本・監督したショートフィルムである。
米国市場でのコレクション向けであり、欧州市場の評価は芳しくなく、米国市場で大いに受け入れられるというストーリーを中心にシャネル復活への苦悩を描いている。
舞台は、1954年のパリで蟄居中のシャネルにクチュールメゾンを再開させる電話から物語は始まる。2013-2014年、ダラスでメティエダール コレクション向けである。流石各国市場で映像を使い分けている。
ガブリエル・シャネル役は、お馴染みの ジェラルディン チャップリンが演じている。
“Coco” – Inside CHANEL
シャネルの人生の出来事をテンポよくまとめている秀逸な映像。この手の映像を何パターンか公開しているが、コンセプトと映像の面白さが非常に心地よく作られている。
ココ・シャネルの人生を振り返る場合、タブーとされた暗黒の時代も余すことなく取り上げてこそ、本物のブランドとなると思うが、頑なにブランド側は表現していない。その点だけが唯一残念な点である。
“CHANEL by Karl”- Inside CHANEL
シャネルのショートフォルム”Coco by Karl – Inside CHANEL”は、カールが語るココ・シャネル像である。
どのような人生を経て、ブランドを築き上げたかをカール自身が語り、未来へのシャネルブランドを導き出す為に、自分の心の中にあるシャネルへのアプローチを探ろうとする映像は非常に秀逸である。
シャネルの思想をイメージさせる事でスムーズなブランド戦略を展開できる
創業者の思想とイメージを増幅させる事で、何百倍もブランドを成長させたカールであるが、創業者が「できない事」と「できた事」を明確に示す事で新生シャネルをつくりあげる事に成功している。
ブランド事業と言うのは、一からブランドをつくりあげるよりも、創業者の土台が強力であるほど、その土台の上に、長期的に成長させ増幅させるのは比較的容易である。
多くのコングロマリットが、創業者の冠たるブランドを買収し、名声を築く土台とその時間をカネで買うのはその為である。
ただ世間に受け入れられるかと言えばそうではない。カールは戦略を立て、ダブルシーのロゴをトレードマークとして、大きく伸びる市場へリーチを掛けた。
いまやシャネルは米国企業であり、大半が米国とアジアが主戦場 (非上場なので詳細はわからないが) である。
創業者のイメージを使う限り、それ以外の市場では、多くの弱点があり、それを克服しそれ以上に、企業を大きく成長させたのは、カールの功績と言える。
経営者の全幅の信頼があるからこそ、ここまで丁寧に「納得がいくまで好きなように」映像が作られているのである。
映像から見て取れるのは、そうしたブランドイメージ向上への執念なのである。他のブランドでは、ここまでの執念は伝わってこない。そうではないと聞こえてきそうであるが、いちファンとしての私にはそう見えている。