データで見るスウォッチ・グループとそのライバル企業の動静
スウォッチ の創設者でもあるニコラス・G・ハイエック は、経営者としての能力を発揮しオメガ の世界的な成功に導き、スウォッチ・グループ をグローバル市場に拡大していくことで、時計ブランドで世界一の規模をつくり、市場のトップシェアを握ることに成功した。
スウォッチ・グループの存在を脅かすほどの存在と言えるのは、現在では リシュモン 及び ロレックス 最近では LVMH も驚異となりつつある。
そこで今回は、スウォッチ・グループとその競合相手の関係性を通じて、改めて時計業界のブランドの重要性を知りたい。
スウォッチ・グループについては、昔から知りたい事が多くあり、それを詳しく論じた書籍を探していた。
ラグジュアリーブランドの研究の第一人者である長沢伸也氏が監修及び訳を担当している【「機械式時計」という名のラグジュアリー戦略】を参考にしながら自分なりにまとめておきたい。
ぜひ詳しい内容を知りたい方は本書を手に取って頂きたい。
主要時計ブランドの売上高から見えてくるスウォッチ・グループの 3 つの視点
フォントーベル の時計製造業界に関する2011年の分析には、世界の一流時計ブランドの売上によるランキングが提示されている。注目すべきは以下の三点である。
- ランキングはスイスブランドのみ対象としていること
- スウォッチ・グループからはブランド10社中5社がランクイン
- セグメントが手の届くラグジュアリーに属しているという事
スイス製に絞られるのは、世界の主要ブランドの大半が、基本的なキャリバーや様々な部品については、ETA 社およびスウォッチ・グループに大きく依存しているからである。
ブランドの基本は、スイス製のブランドで売上の中心を考える方がデータの信憑性は高い。最近では、いくつかのブランドが、独自キャリバーなどを自前で用意する事が多いが、スイス製で基本は考えてもよいだろう。
90年代に行われたブランド再配置戦略の成功 と、市場での存在感の大きさを強調されることになる。その上位20社に目を向けると、ラドーブランドも16位にランクイン。
リシュモンからジャガー・ルクルト、ピアジュ、ヴァシュロン・コンスタンタン、パネライなどいくつかあり、LVMHでは、ウブロとブルガリの時計売上は、それぞれ 約 3 億スイスフラン、4 億スイスフランと推定され、同グループは、タグ・ホイヤーに依存する形である。
概算売上ランキングから見ていくと、スウォッチ・グループが突出している。
上位10ブランドのうち5ブランドを所有しているだけでなく、低価格から中価格を経て「手に届くラグジュアリー」さらに「特権階級のラグジュアリー」まですべての市場区分で存在感を発揮している。
世界制覇に向けて全方位的な戦略を展開している唯一のグループ
さらに上記の製造グループによる時計売上とシェアのランキングをみていこう。多くのブランドが、ラグジュアリーセグメント、特に「手の届くラグジュアリー」のサブセグメントに位置づけられている事である。
パテック・フィリップ とブレゲ は、明らかに排他的ラグジュアリーであり基本的には、少数の極めて裕福な特権階級を対象とする非常に高価な商品に分類される腕時計メーカーである。
この2つ以外の排他的ラグジュアリーブランドは、ランキングの上位には入っていない。ロレックス・カルティエ・オメガ・タグ・ホイヤーはいずれも「手の届くラグジュアリー」ブランドである。
これらは、ほぼ同じような価格に属し、似たような価格 (技術的優秀さ、歴史的伝統) を具現化している。それぞれが、このセグメントで支配権を握ろうと競い合っているが、独立系を除いて、すべて主要時計製造グループに属しているのである。
まとめるとフルラインメーカーのような集合体というメリットを享受しているのがスウォッチ・グループの特徴である。
他の主要時計メーカーは、特定の市場区分のみに照準を合わせている為、スウォッチ・グループはすべての階層の顧客にアプローチができる唯一のグループと言える。
世界市場の制覇という意味では、すべての階層にアプローチしている事は、大きな強みであり、結果的に全方位的な戦略を展開している事が表の結果から見えてくる。
市場シェアが2%を超える他の8グループは「ラグジュアリーに特化した企業」か「大衆市場」を対象とする企業のどちらかだからである。
そのような意味でも、時代の流れと他社の動きの中で、追い詰められたスイス勢が、結果的に一大グループをつくりあげる事となり、他社への驚異と自社の強みを最大限活かしきったグループの完成を私たちは見ることになったのである。
世界制覇に向けて全方位的な戦略を展開する手法は日本の企業も見習うべき
![【Swatch Group スウォッチ・グループ】データからライバルを見る全方位戦略でシェアを拡大する世界で唯一の時計ブランド 【Swatch Group スウォッチ・グループ】データからライバルを見る全方位戦略でシェアを拡大する世界で唯一の時計ブランド](http://phi-grid.com/wp-content/uploads/2017/11/400.jpg)
上記は、「オークデータ 」で、オメガ全体 のカテゴリーで、約 5 年間の総落札額及び平均落札額である。総落札額は、約 5 年ほどで、約 2億円近く膨らんでいる。玉石混交のオメガブランドであるが、ラグジュアリー戦略が功を奏し、少しずつだが上昇する勢いである。
また、平均落札額は、約 40,000~50,000 円前後で横ばいに推移しており、億を超える中古相場を形成していることで、コンスタントに数が出ており、比較的安定した相場が続いている。
出品数は多く、大半が何か問題を抱えているモデルであり、その場合 下落相場になりやすいのだが、平均相場が落ちていないことから、逆に考えると、コアなファンに支えられており、整備品については、高額に売れる潜在的な需要を感じられる。
低価格から中価格並びに、特権階級の価格帯のブランドを隙間なくそろえ、あらゆる市場区分で「オメガブランド」を集中的に選ばせる戦略が、二次市場においても、お手本のような相場であり「手に届きやすい入門的なラグジュアリーブランド」の代表的なイメージの形成に成功しているといえる。
約40年前ぐらいまでは、コングロマリット によるブランドの連合体ができるまで、欧州勢については、個々のブランドで苦戦を強いられ、日本勢に対抗するために、スウォッチ・グループが作られたと言っても過言ではない。
その他の欧州勢の買収によるグループへの参加は、時代の流れであり、バラバラに低迷していたブランドをしっかりとセグメント化することで、ターゲットとなる顧客の棲み分けを行い、全体として長く繁栄しようとする意図は、どのコングロマリットでも共通する考え方である。
個々のブランドで戦うのはもちろんであるが、そろそろ日本勢も、強力なリーダーシップを発揮する企業による連合を形成して、各ブランドの強みを生かしたセグメントのフルライン化 を目指し、世界の市場のシェアを取りに行く動きを多くの業界で展開されることを望んでいる。