米国巨大アパレルブランド”ヴィクトリアズ・シークレット”の SNS 戦略とは
今回は、米国巨大アパレル企業、ヴィクトリアズ・シークレットについてソーシャルメディア戦略の考察と書評を行っていきたいと思う。
現在では多くの企業で同じような戦略を取られているが、ショーを使い、店頭や通販で「ファッション・ビジネス」を展開する 「 ソーシャルメディア戦略の原型 」 を作り出した代表的企業のひとつが、ヴィクトリアズ・シークレットである。
代表的米国のIT・ソーシャルメディア企業のプラットフォームを最大限使い切り、きめ細かく注力しながら、プロモーションを行っている。
セクシー路線ばかり目立つ企業であるが、最大の稼ぎ頭のブランドであり、現在のソーシャルメディア戦略を簡単にまとめておきたい。
ヴィクトリアズ・シークレットについての分析を行った書籍は少なく、今回参考資料として「『ヴィクトリアズ・シークレット』が全米の女性に愛されるワケ」を資料として参照している。
男性にとっては、ブランド分析やらソーシャルや広告戦略などが参考となり、女性にとっては、エンジェルたちの条件や、どのような経緯でブランドが成り立ってきたか知ることができるので、興味がある 方は、一読願いたい。
アメリカ人の日常生活の中で大きな影響を受けているソーシャル・メディアの台頭
米国人の日常生活の中で大きな影響を受けているソーシャルメディアの台頭は、日本以上であり、最近の日本の傾向でも、若年層から既存メディアであるテレビ・新聞・雑誌など、苦戦を強いられているのは、米国の傾向に近くなってきている。
若年層の主な情報源は、ネット検索及びソーシャル・メディアに軸足が移ってきているが、日本の場合、フェイス・ブックについては若干弱く、「LINE」や「Instagram」や「まとめサイト」などその他メディアの分散している傾向が見られる。
米国についても、新しいメディア台頭もあるが、現在のシェアで考えると、勢力図はあまり変わっていない。
米国の既存メディアについてある調査結果がある。ソーシャル・メディア・マーケティング・インダストリー・リポートには、アメリカの広告やメディアに関して次のような調査結果を公表している。
- 約 9 割の消費者は、従来のような広告に信頼を置いていない
- 新聞 25 社のうち 24 社は、購読者数の記録的な減少に直面している
- 新聞広告量は、約 2 割減少している
- TVCMの費用対効果でプラス効果は 1/5 以下。9割の視聴者は、ティーボやDVRなどのHD録画機でCMスキップ
- WSJ紙よれば、数年のうちに、紙媒体による広告は、現在よりも4割程度減少
これらの結果を見れば、既存メディアの広告は衰退していくということを調査結果で上げているが、これについては、ある程度まで事実なのであろうが、既存メディアはまだまだ健在であろうと思う。
ただ今回気になったのは、アメリカ大統領選挙で、既存メディアが大外れ したのは記憶として新しい。ネガティブキャンペーンは、日本のメディア以上であり、偏向も凄まじいという事が、選挙報道でも明らかである。
そのような意味で、米国の既存メディアを見て分かることは、そのメディアを見ている視聴者は、案外既存メディアを信じていないのかもしれない。
日本以上に、ソーシャルメディアの重要性は高いのであって、それを既存メディアを信じていない視聴者層に向けてあらゆる企業が、プロモーションするのは自然の流れなのである。
比較的早期からオンラインの可能性に掛けたプロモーション戦略
1998年12月より500万ドルの予算で、自社のデジタル戦略を担当する新しい部門を立ち上げてから公式サイトを公開しており、比較的早くウェブの可能性に掛けている事が分かる。
当時からオンライン戦略を展開する場合、コストがその問題となるが、比較的早期からショーを中心にファッションビジネスを展開している戦略から、オンラインでの親和性は非常に高い事が分かり、それなりの予算を掛けている。
要は小物を売るわけであるから、多くの人間にリーチして始めて売上が立つのであり、小売におけるネットでの親和性は非常に高い。
ただこの感覚は、現在において分かる感覚であり、当時としては非常に実験的であっただろう。ネットを使ってモノが売れるかという感覚である。
翌年 2 月には、VSファッションショーをストリーミング・ビデオ放映していることから、その重要性は早く理解できた事で、ソーシャル・メディアに注力することが可能となったわけである。
2001年には、ストリーミング方式と対話式プラットフォームを導入し、ある程度の手応えを掴んだことであろう。顧客がサイトを閲覧し商品を購入する間に、モデルが商品について紹介するといったプロモーションである。
どちらかと言うと、テレビ通販のネット版という側面は否めないが、テレビという媒体であってもネット動画の視聴は、テレビを視る行為と変わらず、販売手法はそのまま使えるのである。
その場合、ソーシャル・メディアの台頭が待たれるわけだが、より顧客側にリーチを伸ばす為の入念な戦略を練りながら、カタログやテレビなど既存メディアに近い戦略が混ざった過渡期と言えるであろう。
ヴィクトリアズ・シークレットは、この時期から組織の大幅な変更を時代とともに合わせてきている。つまりは、伝統的なカタログ通販とオンライン販売の事業部の統一である。
その後約10年以上の間に成長する過程で、戦略も組織も一緒に進化している。また、オンライン事業部門の内製化を図り、外注に極力頼らない方針が採用されている。
よりソーシャルとの親和性の高い若年層向けブランド「PINK」の市場投入
大幅な組織と権限の変更により、ヴィクトリアズ・シークレットの成功と共に、VSの下着など、その他周辺の小物以外の商品にラインを拡大する事が可能となる。
新しいラインの市場投入として、ソーシャルとの親和性の高い若年層向けブランド「PINK」の投入を図り、対象年齢を引き下げ、16才~22才をターゲットとしている。
この「ピンク」は、ヴィクトリアズ・シークレットの顧客層よりも若い年代層、特に大学生をメイン・ターゲットにしている。
より顧客側に近づく戦略のひとつが「ピンク・ネイション」におけるファンサイトの運営戦略である。利用者にはネットでの購入のインセンティブや特典を与え、投票で選ばれた大学を舞台にした大規模なパーティーの為に、トーナメント形式、勝ち上がり方式の企画や各大学のミスキャンパスのような参加選出型の企画があったりと実に様々な企画が用意される。
その中で、参加者たちは、コンテストなどで得票するために、自らソーシャルメディアをフル活用することとなり、投票依頼行動を通じて、ピンクの商品やイベント情報がクチコミで拡散する戦略を取っている。
ソーシャル・メディア戦略を通じて、参加者の愛校心に火をつけ、ターゲット・ユーザーに向けて、深層心理を付いた潜在的欲求をいかに上手く売上に繋げる為に、日々積極的にプロモーションを展開している。
ヴィクシー・モデルという強力なコンテンツを使い SNS をフル活用する
ヴィクトリアズ・シークレットのフェイスブックのファンページも大変充実したものとなっている。ファン数は、企業の中でも最大級の人数を誇り、動画や写真を頻繁にアップしている。
ネットとリアルの融合では、店頭で使えるクーポンの発行など、積極的にメディア戦略を使っている。
毎日のソーシャルメディアでの最大の利点は、コストがあまり掛からず、それでいてファンに直接リーチを掛ける事が出来る事であろう。
ツイッターでは同じ目線の等身大の「中の人」がターゲットユーザーと同じような感覚でブランドを見れるような投稿を心掛けている。
またファンよりダイレクトに意見が聞ける場である事も非常に大きく、最近ではノウハウの蓄積により、より繊細にきめ細かく、用心深くソーシャルメディア戦略を展開している。
ユーザーである女性に関心を持つ中心的情報は、ファッション、ビーチ、マニキュア、エクササイズ、結婚式など、日本でも定番な情報を常に発信している。
また顧客には、会社の将来のビジネスに関与するチャンスも与えている。商品企画の募集により優秀で選ばれたものを商品化したり、コンテスト優勝者に、VSと何らかのカタチで協力するチャンスを「賞」としてプレゼントしている。
またソーシャルメディアでショーにおける裏側や告知、モデルコンテンツを使った各ソーシャルメディアでの利用、店頭やオンライン販売と連動した動画やCMなどがアップされ、頻繁に上げられるようになり、リッチメディアが整備される事で、情報ハブ化している。
ネットの画像/動画と親和性の高いモデルやカラフルな下着を活用し、ソーシャルメディアを通じ、割引・特典・キャンペーンやイベントなど様々な企画を展開しながら、顧客を囲い込んでいる。
このように現在では、多くの企業が取り入れている戦略を早くからビジネスモデルとして構築していることが優れたブランド構築に大きな影響を与えているのである。
Images courtesy :Victoria’s Secret.com /Pinterest