LVMHの強み:分野別ポートフォリオ:安定分野と不安定分野の混成チーム
LVMHはそれぞれに得意分野を持つブランドを多く集める事で、財務的にも商品的にも安定化を図る戦略が取られている。コングロマリット としてLVMHを見る際に、ポートフォリオ・マネジメントを取り入れていると言われている。
ポートフォリオ・マネジメントというと、その説明はこうなる。ワイン・スピリッツ分野は毎年安定した収益を上げ、それをベースにシーズンごとに成績が上下するファッション分野の財務体質を補填して全体的に安定した成長を行う。
レザー・ファッション部門のブランド群は、商品は流行に左右され、足の早い生もの、シーズン毎に当たり外れがあり、成績に浮沈があるが、ヘネシーのような、酒分野はコンスタントに一定の売上と利益をもたらす。
ファッション分野ばかり偏った経営で、浮き沈みの激しい企業経営をしていると投資家から嫌われ、長期計画に基づく経営と資金調達面で不調が出てくるが、堅実な売上と利益をもたらすワイン・スピリッツ分野を強化する事で、グループ全体の業績の土台を底上げ、一定の安定の元にファッション分野で勝負ができる事が可能になる。
堅実な分野と流行に左右される浮き沈みの激しい分野を両方抱え、持ち株会社であるLVMHのマネジメント能力が試されている。
こうして見ると、LVMHは、どこかのブランドが不調の場合、周りのブランドでカバーするというチームプレイ型の企業体であるように見える。
この企業体は、ブランドをどんどん囲い込み、傘下企業を際限なく増やしてもうまく機能できるように見えるのはこうしたチーム力によるところがあるようだ。
同じグループに入ったブランド同士はライバル関係という事もあり、同じ資本に入っても自治は許されているようなので、大きなビジョンと予算以外は、比較的自由な運営をする事でそのプレーが可能なようだ。
私たち顧客としては、安定してブランドのラインを出して、多くの商品を手に入れたいところである。ファンである企業が危機に陥る事は悲しい事であるが、そのような意味ではLVMHの傘下であれば、しばらく安定したブランドマネジメントができることであろう。
地域間ポートフォリオ:高級品は利ざやが高い分、政治リスクや外的要因に弱い
LVMH独自に呼ばれている「ジオグラフィカル・ポートフォリオ」。LVMHが世界中に展開するひとつの理由が、一つの地域の売上に頼らず、リスクを分散して各地域が互助関係を築く事にあるようだ。
私が贅沢品にこだわる理由は、じつはまったく合理的だ。贅沢な利ざやを稼げるのは贅沢品だからね。参照:ベルナール・アルノー/ファッションデザイナー食うか食われるか
贅沢品で欲しがられる物、贅沢品で誰からも欲しいと思われれば、高価格で販売が可能になり、利ざやは最大限大きくなるという事である。
高級品は利ざやが高い分、政治リスクや景気低迷・テロなどの外的要因に非常に脆い面を持つのが弱点である。LVMHの売上が落ちる場合、通貨危機やテロ・不景気に端を発しやすい。
地域間でのポートフォリオでリスクを分散するという試みはそろそろ限界
ファッションをはじめ、宝飾品、時計、酒など高級ブランド品は贅沢品にあたり、財布と心の余裕がある人が顧客の大半であるが故、失業者の増加、景気悪化、戦争やテロが近いなどの社会の雰囲気により、贅沢品の買い控えが起こるというのだ。
贅沢品は、利益率の高さと引換に社会の気分という外的要因に強い影響を受けている。現在の日本でも、いくつかその傾向が当てはまるが、大半は為替の影響の方が強いであろうが、日本でも景気の悪化が長く続いているので、LVMHであろうと苦戦している。
LVMHのこうしたリスクは、ずっとついて回る。リスクを回避して、世界中で展開するのはある意味正解であるが、展開した国がリスキーな場合、セールスは非常に難しくなるだろう。
最近であれば中国に市場を求めていたが、あまり芳しくないようである。世界的に景気が低迷して、それを中国などの成長国 (バブルは沈静化したが) でカバーできるとは限らない。
地域間でのポートフォリオでリスクを分散するという試みはそろそろ限界に近づいてきているが、既存の高級ブランドの買収や東南アジアの新興ブランドの買収なども積極的である。
また新分野などの開拓にも積極的であることから、その限界を自ら打ち破ることに苦慮しているのである。
参照書籍:ブランド帝国の素顔―LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン