LVMHの経営戦略:アルノーあっての LVMH、求心力があるからこそのグループ
大小様々な高級ブランドを傘下に収め、グループは拡大の一途と辿ってきた モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン。
一般の企業とは異なり、全体の経営戦略においては、希代の経営者、ベルナールアルノーあっての事である。
日々業務を行う中で、平時のブランド戦略は、優秀な人材が揃えばある程度可能であるが、他国に攻め込み、他国を傘下に置く、買収という技は、アルノーでしか出来ないことである。
個々の高級ブランド群は、大きく成長を果たす事は難しいが、器であるグループに新しいブランドが入る事で、数字的な成長は一応達成はできる。
ただ、その中で、ルイ・ヴィトンを除き、いくつかのブランドが、大きく成長して、ヴィトン以上の屋台骨を支える次のスターブランドになっているかと言えば、明らかにノーである。
成長を続けるグループの源泉は、このアルノーによる矢継ぎ早のM&A戦略がグループ全体を引っ張っているといっても過言ではない。
アルノーのふたりの後継:アントワーヌ・アルノーとデルフィーヌ・アルノー
LVMH側は、アルノーに不測の事態に陥っても、彼が行う事業を引き継ぐ事の出来る強力な組織体制を作っているし、特別な後継計画もあると言う。
後継者が誰になるかというよりも、そもそもアルノーを超えるだけの経営能力を持ち合わせ、アルノー以上の成長を引き出す強力なカリスマ性のある人間がいるのかという事である。
息子のアントワーヌ・アルノーと娘のデルフィーヌ・アルノーのどちからが後継者となるという計画であるが、世襲することでアルノー一族で、グループの延命を図る可能性は非常に高い。
アントワーヌは、ベルルッティの会長をデルフィーヌは、ルイ・ヴィトンの副社長となっている。アルノーがどちらかを後継にするかは分からないが、少なくとも経営に参画させ、ブランドの経営を学ばせていることは間違いはない。
LVMHは資本による支配をしながらも、比較的緩やかな管理体制の基に成立しているグループである。
トップ自体のカリスマ性と経営能力で成立しているが故、中小企業の寄り合い所帯で機能するグループである限り、トップが代わるとバラバラになる危険性を孕んだグループでもある。
実はこうした最大の強みが、最大の弱みなのである。アルノーあってのLVMH、トップの求心力があるからこそのグループなのである。
迅速な決断力と冷徹かつ攻撃的な買収姿勢、冷静な情熱家 アルノー
経営的な決断も非常に早いようである。アルノーは何でも即決なのだそうだ。稟議などなく、電話一本で決まる。良い事や前向きの事はもちろん、後ろ向きの事でもそうである。
事業での迅速な撤退と参入を決めるその決断たるやアルノーの企業と感じるところである。
その穏健そうな外見と裏腹に、冷徹かつ攻撃的な買収姿勢があるのも特徴的であり、グッチ買収の際の冷静さは面白い逸話である。
つい1.2時間前に、買収に何千億を動かしたにも関わらず、次に会う人に、冷静沈着に対応し、人間であれば、少し前の興奮は残るものだろうが、そんな様子はまったくなく、いつもと同じであったという。
世界中の店舗も精力的に見て回るが、あの店はどうだったとか、この店はこうだったと実に克明に記憶しているようである。
このあたりも優れた経営者である事が聞こえてくる。
アルノーが好んで使う LVMHの企業理念「創造への情熱」
上記は、アルノーが好んで使う言葉でもあり、LVMHの企業理念であるようだ。またメセナ活動にも積極的に関わっている事も知られる。
これについては、各ブランドの顔を立てる事もあるだろう。彼自身の芸術を愛する側面もあり、大きなメリットがあるようだ。
こうした活動はLVMHのイメージを向上させることになり、製品の質の向上につながると見ているようである。
LVMHはアルノーの個人的なセンスが大きく反映されるグループである。アルノーももはや70代に近く、後継者に事業を譲る時期でもある。
情熱や冷静さを永遠に保ち続ける事はできないが、まだしばらくは、政権は続ける事ができる。
傘下ブランドのデザイナー交代を見事に演出するアルノーであるが、自身のグループ総帥の政権交代を上手くできるか、非常に見物である。
その後継者が、アルノーを超える者であるかと言えば、もはやアルノー以上の人物の輩出は難しいと個人的に見ている。
歴史的に見ても、初代の影響力と組織運営は、代が代わる事に、力を失っていくのが大半だからだ。それは企業でもそうだし国家でもそうである。
今後、高級ブランドを率いる事になる後継者は、完成した組織をいかに守り成長させるか、それはアルノーよりも難しい経営に直面する。
LVMHが変わるとすれば、まさにアルノーから誰になるかで大きく変わるだろう。今後が楽しみである。
参照書籍:ブランド帝国の素顔―LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン