ビジネス戦略:ファミリービジネスで経営を失敗したブランドを理解する受け皿
優秀なデザイナーが創業して、ファミリービジネスをはじめる事は、多くの国で行われている商行為である。
このファミリーからはじめるというのは、メリットもあるがデメリットも大きい。
ファミリーではじめて、長年経営し、その後、親族や血族に世襲する場合、ファミリー色が色濃く残り、その独裁を謳歌する。
慢心からその経営がおかしくなりはじめると、血みどろの争いを起こしてしまうのもファミリービジネスの大きな欠点である。
グッチ一族の骨肉の争いは、非常に有名な象徴的な事件である。現在のグッチ一族はグッチという名前すら使えなくなっているのである。
家族で憎しみ合い、血みどろの戦いを繰り広げるのは、歴史的にみても、枚挙に暇がない。デザイナーがファミリービジネスを長年維持していくには困難が多く難しい。
LVMHの傘下にも、紆余曲折を経て、経営的におかしくなりはじめ、最終的に傘下に収めてもらうブランドも多い。
経営がおかしくなりはじめたラグジュアリーブランドが、そのブランド価値を市場で一定の評価を得ている場合、買収による企業存続を図ろうと考えるのが LVMH である。
買収を通じ、企業存続に理解する受け皿はそうはなく、傘下に入る意義は、落ち目のブランドには救いとなるであろう。

ファミリービジネスで大きくしくじったダナ・キャランとハナエ・モリ
ダナ・キャランの例も典型であり、マネジメントを見ていた滝富夫が去り、彫刻家の夫ステファン・ワイスと夫婦で経営をはじめてから業績がおかしくなり始めた。
ダナ・キャランがウォール街に進出して、上げ相場でやられ、自身の経営の才覚不足や経営内容について「マネージ―ダナ・キャランを創った男 滝富夫」に詳しい。
放漫経営により株価が下落しても、ダナ・キャランCEOは 「株はスカート丈と同じように上がったり、下がったりするものよ」 と呑気であったようである。

そのダナ・キャランも経営を支えきれず、LVMHの傘下に入る事になった。
つまりデザイナーは優れた経営者でもなく、両方を熟せる一部の優秀な人物を除き、デザイナーはあくまでデザイナーなのである。
ハナエ・モリ についても、ファミリービジネスで躓いたブランドのひとつである。マネジメントを仕切っていた夫が亡くなってから経営がおかしくなり始めた。
ジャンフランコ・フェレは、ファッションにおけるビジネスという側面を知るうえで、信頼できるビジネスパートナーを探せと述べている。
ビジネスパートナーを家族から迎え、経営を行う場合、家族を失った場合の反動は大きい。信頼しすぎると、家族に甘え、監視という目が甘くなり、家族の逝去などにより、一気に経営上の問題が噴出する。
これは洋の東西あらゆる業種、あらゆるビジネス、政治、芸能の世界で起こりうる。どこでも散見される光景なのである。
グループ傘下に入る最大のメリットは作品創作に集中出来る事
経営には左右の頭脳がいると言われる。クリエーションは右脳であり、経営は財務感覚の左脳が主に使われたりする。
ひとりの人間が両方できたり、同時に考えたりする事は困難である。
ピエール・カルダンのように例外はいるが、あくまでも例外中の例外であり、小さな規模で創業国のみで家族が見れる間はいい。
ただ、ある程度の規模になり、世界市場でグローバルに経営する場合、経営をデザインしている傍らで中途半端にするような簡単な仕事ではない。
必ず誰かにマネジメントを交代する事を余儀なくされる。その場合に、コングロマリットに傘下に入る意味は大きくなる。
ビジョン と 経営マネジメント は他人に委譲し任せ、自分は得意のデザインを優先していく。
家族ではなく、数字と成績を客観的に見れる他人にマネジメントを任せる方が、創業者一族などに任せるよりははるかにマシな経営になる。
一部の企業を除き、多くの企業で証明されている。それこそがグループの傘下に入る最大のメリットである。
参照書籍:ブランド帝国の素顔―LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン