LVMHのビジネス手法:矢継ぎ早の「M&A」とマルチブランド戦略
LVMHは現在に出現したブランド共同体のひとつの解である。その総帥、ベルナール・アルノーは、ブサック及びクリスチャン・ディオールというブランドを買収したのを手始めに、他のブランドを矢継ぎ早にM&Aによる買収を仕掛け、拡大戦略を取り続けている。
買収したブランドの成長と発展を図り、グループ内の利益を蓄積し、蓄積された利益をもって財務的に安定性を保ち、それをベースにさらなるブランド企業の買収を加速する事により、グループを一層強固な企業体にする事である。
ポートフォリオ戦略と経営により、拡大の一途を辿ってきている。まさにマルチブランド戦略の最大系のグループである。そのプロセスはスパイラルのようにループしており、一度成長軌道に乗れば、倍々ゲームのような方式である。
ラグジュアリー性の高いスターブランドを複数押さえている限り、買収先のブランド企業さえ間違えなければ、勝利の可能性が高い優れたビジネスモデルでもある。
それもこれも、グループ創設の初期の大博打である 「ブサック及びクリスチャン・ディオールの買収」 とディオールをベースに「ルイ・ヴィトンの買収」し傘下に収めた事で、半分以上勝利したも同然であっただろう。
高級ブランドの条件は 「タイムレスとモダンの両立」 に鍵である
買収そのものはカネさえあれば、投資会社やファンドなどが買収は可能である。ただ、買収したブランドの価値を引き上げ、高付加価値のあるスターブランドに成長させる事は容易ではない。
高級ブランドを買収して傘下に入れても、経営センスと手腕が問われるのである。彼がいうスターブランドの条件は、タイムレスとモダンの両立を挙げ、それに適合するブランドを買収先として選び抜いて傘下に収めている。
例えば、ポール・ポワレと クリスチャン・ディオール であれば、どちらが有名であるか一目瞭然である。時代を超えてでも「名が轟く」という事が、タイムレスである。時代を超えて通用するブランドかどうかという事である。
タイムレスでないデザイナーが一代で築いたメゾンは、創業者が死や引退とともに忘れ去られ消滅を余儀なくされる。
しかし、どんなに落ち目になっても「クリスチャン・ディオール」という名前は誰でも認識しており、知名度も高くよりタイムレスである。それがスターブランドのひとつの条件である。
また、単にブランドの名称が存続していれば良いというわけでなく、モダンは現代的という事である。
成長と発展の観点から言えば、「高価格で売れるデザイン」は必須であり、時代が求める条件の良いブランドであり、現代的という事になるようである。
名前が時代を超えて通用し、そのブランドの出すモデルが高価値で売れるのであれば、そのブランドは 「買収に適したブランド」 といえる。
ブランドは芸術でもなく、プレミアやヴィンテージなどにも皆無である
企業は芸術家のような売り方をしてはならない。創業者 兼 商品デザイナーが生前では売れず、死後に売れてしまうようでは、企業は成り立たなくなってしまう。
企業によって不採算のモデルによる生産終了モデルや倒産後に多くのモデルが、プレミアやヴィンテージがついて高騰しているという事などは、企業にとって実はどうでもよいのである。
ブランドが、復刻版やリバイバルモデルを狙うということは、過去の成功や人気を取り入れざるを得ない理由があり、復刻やリバイバルをするということは、ブランドにとって後ろ向きな考えである。
当時のファンは喜ぶであろうが、新しい提案ができないという証拠であり、過去の遺産で生き永らえることを考えると、そのブランドは弱くなっているひとつの証明となるだろう。
このようにタイムレスとモダンは、再生を必要としているブランドには困難な事が多いが、LVMHは、このタイムレスとモダンの両立という矛盾した考え方を的確なデザイナーの交代や経営の刷新を行い代謝を図り、マネジメントしている。
日本のライセンス・ビジネスにおける典型例 「ハナエ・モリ・グループ」
日本ではこの世襲的な交代でブランド名の維持運営を図っているが、その間のシームレスな対応に失敗しているのは枚挙に暇がない。今の当代より、父の代やその先代の方がよかったというのがソレである。
ファッション業界で言えば 「森英恵 」 率いるハナエ・モリ・グループにおいては、家族に経営を譲る事を画策したが、経営は行き詰まり、プレタポルテ部門をロスチャイルドと三井物産へ売却。
2002年、オートクチュール部門の「ハナエモリ」が、民事再生法の適用を東京地裁へ申請倒産して、負債総額は約100億円と言われている。
また、森英恵は、ライセンス商法をはじめ、タオル・魔法瓶・トイレスリッパに至るまで点数を増やし事業を拡大させたが、この戦略はゼロサムに近く、大きくブランド価値を失墜させている。
移行期やブランク時、経営危機において他のブランドがリスクを吸収
一代で築いたデザイナーはその引き際まで考える必要があるが、このカリスマや優れた跡継ぎにおける交代時は、移行期ということになり、ブランクに近い状態にブランドは陥る。
例えばそのような傘下ブランドに入れていても、資本力とグループの力でブランドを支える事ができるのもLVMHの強みであろう。
LVMHには、リスクが少なく、利益が大きい洋酒や香水・化粧品部門があり、ブランク時期のブランドの経営を支える事ができる。ただ立て直しができない場合は、売却される可能性も否定はできないが。
ポートフォリオ経営により、高級酒や化粧品などのブランドの利益で、減少した利益を相殺する事がある程度可能なので、買収時における立て直しを余儀なくされたブランドも支える事が出来る。
ハナエ・モリのような中小ブランド単独な企業ではこういうわけにもいかないのだ。移行期やブランク時、経営危機において他のブランドがリスクを吸収しているのがLVMHのひとつの強みであろう。
参照書籍:ブランド帝国の素顔―LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン