ビジネスの世界でも良い条件に付き纏う”後出しジャンケン”的な悪い条件
第 3 章で取り上げられるテーマは、「ローボール・テクニック」の理論を多くの事例を共に紹介されている。所謂、特典除去法である。一貫性の原理を上手く利用している心理テクニックである。ビジネスの世界では広く使われ、良い条件はすぐに言う割に、悪い条件はひた隠しにして、顧客を上手く嵌め込んだ後になって、悪い条件を提示する。あなたも一度は経験があるのではないか。一方で仕掛ける側、また一方で仕掛けられた側として、日常茶飯事の事象なのである。
これを書いている少し前に「東芝決算発表先送りの件」が賑わかせているが、これは「東芝の不正会計問題(粉飾決算)」から続く経営の混乱、米原子力事業での巨額損失の対応策や債務の回避策などが示されるはずであったが、隠蔽体質は変わらず「悪い事は伝えない」という組織の体質が露呈した結果となったわけである。もはやローボールどころか、投球すら出来ない事例であろう。
その前に「チャレンジ」と呼ばれる予算達成のプレッシャーにおける利益の水増し (粉飾決算) は、まさに組織ぐるみの巨額な「ローボール・テクニック」と言え、どうせいつかバレるわけだが、株式など隠蔽された情報も分からずに購入して、買った後で大きく値が下がっても、いつか復活するであろうと一度購入を決めた事から、決定を変えずに、今でも塩漬けの人も多く出ている事であろう。
ビジネスにおいては良い条件もあれば悪い条件もあるが、一見良い条件に見えて、後から悪い条件を出してくる企業なども多く、最近では多くの分野で、より狡猾な案件も多く、詳細な調査を行い、疑わしい場合は、手を出さない方が無難であろう。また高額な商品やサービスを購入した際に、問題が噴出する例も多く、仕掛ける側は、ますます狡猾になってきている。
個人的に経験した内容で言えば、ロレックスの件における売買について、いま考えると良い経験が出来た事を本書に書かれている事例を参考に「影響力の武器」っぽい事柄を記しておく。
“ロレックス”どんなに古くても外装はニセモノでも内部の機械が生きていれば高い取引価格を付ける恐るべきブランド
20世紀初頭に時計商社としてイギリスで創業したが、当時は時計関税が高額だったため以後漸次スイスに拠点を移し、その過程でメーカー化。懐中時計が主流であった当時、早くから腕時計の利便性に着目し、別会社である「オイスター社」が開発し、それまでの腕時計と比較して防水性が格段に高い「オイスターケース」を実用化、自動巻き機構「パーペチュアル機構」や日付が午前零時頃に一瞬で切り替わる「デイトジャスト機構」を発明、腕時計で初めてクロノメーターの認定を受けた。
参照:ロレックス-wiki
相変わらずの人気ぶりを誇るロレックスの腕時計であるが、個人的に言えば、中古市場で最も人気で、高額に取引される腕時計であると思っている。腕時計ブランドはそれこそ多くのブランドが存在するが、ロレックスほど、一次でも二次市場でも人気のブランドであるのも珍しい。
またそれが、長年続いている事から、一時の流行や、著名人が付けているから、このモデルのみ人気と言うよりも、ほぼ全体的にロレックスというブランド自体が人気である事から、高いブランド力を備えた「世界で最も高額な実用的な腕時計ブランド」と言っても過言ではない。
前回の記事でレジェンドブランドのまとめ記事を書いたが 【参照:ラグジュアリーブランド分布図から高級時計の性格を知ることで分かる 13 の選択肢】 抜群のリセールバリューである。誰もが一度は憧れ、欲しいと思うまさに腕時計の王者である。
ロレックスはその人気ぶりから、親父が約50年前に、祖父からプレゼントされた時計を長年使い、その後壊れたまま長期間放置していた。ここ最近になって中古買取店が台頭。近所にも多くの買取店が出来た事から、買取査定に出してみたが、査定価格は、約 10 万円という驚異的な査定価格が付いて驚愕した経験がある。
もはや外装は傷だらけのボロボロであり、趣味や仕事で、モータースポーツをしていた親父であったので、クルマやバイクをいじるのが大好きであり、腕時計を付けたまま、メンテナンスをする事から、油や汗などの汚れがこびりついた内容であり、お世辞にも良いモノとは言えない。
親父も祖父も、当時のロレックスは少し高いが、実用的で、仕事で気にせずにガシガシ使える代物という感覚があり、より道具感の強い使い方をしており、あまりメンテナンスせずに使っていたようだ。現在のように高いブランド性を誇り、着々とブランド力が上がっている事に気づかない当時のままのブランド感覚のシニア層は、一定の割合で存在する。
知人のおじさんは、ロレックス自体を高級ブランドという認識がないことから、外装を勝手にデコレーションしてキラキラにしてベルトはニセモノの社外品、ボロボロになったので、査定を出したら、約5万円で買い取ってもらえたようだ。中の機械はホンモノであり、機械だけを使うようである。その他、同じ時期に購入したブランドも同じく査定に出したが、全て二束三文の結果だったようだ。
このように普通のファッション時計では、ゴミ代を請求されるかもしない。ところがロレックスでは、年代物でも壊れていても中の機械を売買できるし、開けてみると綺麗で壊れていないと言う事で、高い査定額が付いたのである。まさに恐るべきブランド、ロレックスである。
買取現場で繰り広げられるロレックスを巡る”ローボール・テクニック”
個人的に保有していたロレックス (上記モデル) を査定に出した時である。ロレックスの相場をオークファンでチェックしていこう。また私は素人なので、知人の玄人が集まる市場に出入りしている関係者の人間にも協力を要請。相場は、約 70万円~80万円の間である。
ロレックス自体の相場は安定しており、私の場合親父や祖父と違い、比較的綺麗に使っているので、状態は非常に良い。また定期的にメンテナンスもしている事から、高い査定額が予想されるであろうと計画を立てた次第である。
ローボール・テクニックはあらゆる店頭で見られた。最初は、相場に近い高い査定額を出してくる。流石ロレックスであるな感心していたが、どうも条件が悪くなってくるのである。一つ目は、交渉する中で、ここの業者に決めようとした矢先、メンテナンスを費用を計上することを忘れたというものである。
ロレックスでは、定期的なオーバーホールを推奨しているが、オーバーホール有無で、業者側がオーバーホールを出す場合、オーバーホール費用を差し引いた査定額を出してくる事が散見される。ちなみにオーバーホール費用は、約数万円程度であるので、その費用を後で引くと言うのである。
二つ目は、高い査定額を付けた後、付属品の有無で査定額を巧みに下げたり、安く取引された価格を提示したりして、そこよりも若干高く買いますなど、何かにつけ条件をつけて安く買おうとするのである。
もはや現状の状態から相場価格は予想出来るし、相場は誰でも見られる事から、初めから知っている前提で顧客と取引して、最初から勝負すれば良いのにと思ってしまう。買取の現場では買取品が少ないと聞くし、良い買取品が出れば、それこそ業者の争奪戦は熾烈になってきている。
要は顧客となる人々が賢くなってきているのである。そのことを業者はあまり認識できていないが、小手先の買取テクニックはもはや通用しない時代になってきているのである。
私のように査定額のリストを作り、相場に最も近い最高値を付けた業者に売るわけだが、自分で売っても良いと判断できるのが、ロレックスの良さである。個人が売る商品の状態と相場を把握しておけば、その相場の価格付近で出品しておけば良いのである。何せ状態が良いのであれば、問題はなくなる。
問題なのは、状態が悪く、面倒を引き受ける費用を高く見積る業者が増えたと言う事である。それだけ条件の良いモノしか買取しないようになり、市場でも良く売れるモノが、業者同士で取り合いになっているのである。それこそ、今回のロレックスは、業者間の引き合いが多く、未だに現状どうなっているのかとの連絡が来たりする。
そのような業界の状況から、ローボール・テクニックは、ますます狡猾になり、私たち顧客に悪い条件をあげつらい、買取査定額を下げに掛かってくるのである。今回もまた非常に勉強になった次第である。
相場データ参照:オークファン
セールスの現場でも心理効果を利用し、多くの人々が嵌め込まれている
本書では、この原理を使い狡猾なローボール・テクニックが用いられている事例を紹介している。クルマの下取り販売の事例では、良い条件で買取価格をつけ、契約書の署名する前に、担当マネージャーが、見積額を実際の相場レベルまで引き下げると告げるシーンである。
相場はすでに顧客側は分かっており、適正であると理解がある場合、当然その申し出を受け入れる。時に販売側が出した高い見積額で自分が儲けようとしていた罪の意識を感じるという。
これについては、私自身にも経験がある。住宅の販売現場で中古マンションの下取り販売のセールスを担当していたとき、新築住宅の住み替えにおける中古住宅の下取りの価格を相場よりも高く下取りしますと告げた時に、大いに顧客に喜ばれたからだ。
個人的には、ローボール・テクニック使った事はなく、条件を変えてくるのは、いつも顧客側においてである。その顧客から、下取りの事例では、その後罪の意識を感じてか、菓子折りや粗品など何度か頂く事となった次第である。特別な事をしているわけでなくである。
その当時は、まったく意味が分からず、なぜ菓子折りや粗品など持ってくるか分からなかったが、影響力の武器を読んで初めて理解したわけである。そうか罪の意識から一貫性の原理が働いたのかと。
購入側もしくは、物事の決定側は、正当化する決定を支える強力な脚を数多く作り出された場合、そのうち販売員が、一本引き抜いても、決定が崩壊することはない。
私もクルマの購入した経験から、税金やオプションなど追加項目においても、少々値段が上昇しても、購入の意思を曲げる事がなかった。手に入れる幸福感さえ味わう事が出来れば、人間は少々の損失は取るに足らないモノとなってしまうのである。
ローボール・テクニックが印象的なのは、不利な選択で人を満足させることができる点である。悪い選択肢しか提供できない人は、このテクニックを好む。彼らは、商売で、社会的状況で、個人的な場面で、心理的テクニックを用いる。ローボール・テクニックを頻繁に出してくる人には近づかない方が無難であり、与えておいて取り上げる戦略に引っかからないように、本書を読んで勉強しておくほうが良いだろう。